組み込みマイコン用のC/C++コンパイラ・デバッガ「IAR Embedded Workbench」で世界的に定評のあるIARシステムズはパートナー事業の強化を推進中である。量産製品にも使えるボードやモジュールに「IAR Embedded Workbench」を組み合わせることで、顧客の開発期間の短縮や開発コスト削減を支援したい考えだ。今回、エアマイクロ社とのパートナーシップによる「ZigBee開発プラットフォーム」を新たに展開し、ワイヤレスネットワークに対する顧客ニーズに応えていく。
ZigBee開発プラットフォームを発表。
IARはC/C++コンパイラ・デバッガ「IAR Embedded Workbench」などで広く知られていますが、2010年12月に新しいソリューションを発表したそうですね。概要を紹介してください。
松田:今回IARでは、エアマイクロさんとのパートナーシップのもと、「ZigBee開発プラットフォーム」というソリューションの提供を開始しました。このソリューションは、当社が提供するArm用IAR Embedded Workbench(通称「EWArm」)の30日間期間限定版とArmコアベースのマイコンに対応したJTAG ICE「J-Link for Arm」に、Cortex-M3ベースのマイコンを採用したエアマイクロさんのZigBeeモジュール「AM-205」×2セットとその開発ボード「AM-205EB」×2セット、それにZigBeeのスター型通信サンプルソフトウェアやケーブル類を組み合わせたソリューションです。近距離ワイヤレスネットワークであるZigBeeアプリケーションの評価と開発を目的としており、価格は98,000円(税別)です。
IARはこれまでにも「IAR Armソリューション」としてUSBやイーサネットのプラットフォームを提供してきましたが、今回のソリューションはどこが違うのでしょう。
村井:IARでは、Cortex-M3またはArm7ベースの「TCP/IP開発プラットフォーム」と「USBホスト開発プラットフォーム」、Arm7またはArm9ベースの「LCD開発プラットフォーム」を提供しています。これらは、EWArm(評価版)を中核に、「Armデバイス評価ボード」、リアルタイムOSであるイー・フォース株式会社の「μC3」(評価版)、イー・フォースや株式会社グレープシステムが提供する各種ミドルウェア(評価版)、当社のJTAG-ICE「J-Link」、そして「ボードサポートパッケージ」などを組み合わせて総合的にご提供するもので、導入後すぐにデバイス評価とアプリケーション試作が行えるようになっています。ただし、これらのソリューションはソフトウェア開発を目的としているため、お客様が製品を展開される場合は、ハードウェア部分はお客様ご自身で別途設計していただく必要がありました。一方、今回の「ZigBee開発プラットフォーム」は、お客様の量産製品にそのまま組み込めるエアマイクロさんのZigBeeモジュール「AM-205」を組み合わせた点が異なります。つまり、単なる評価目的ではなく、最終製品そのものの開発支援までを対象としている点が今回のソリューションの特徴です。
センサネットワーク構築に最適。
今日はエアマイクロの木佐貫社長にも来ていただいています。最初にエアマイクロについて教えてください。
木佐貫:エアマイクロは2004年11月の設立で、無線開発に特化したエンジニアリング会社です。無線開発には様々なノウハウと経験及び測定技術が必要で、単に無線ICをプリント基板に搭載しただけでは十分なパフォーマンスは得られません。たとえば、周辺部品の選定やプリント基板の微妙な引き回しで、無線モジュールの特性は大きく変わってしまいます。当社はまだ少人数のベンチャー企業ですが、様々な無線開発に対応できる人材を備えており、大手メーカーを含め多くの問い合わせや開発委託をいただいています。
無線といってもさまざまな方式がありますが、どのような分野を得意としているのですか?
木佐貫:当社への引き合いでもっとも多いのはZigBeeです。2008年に8051ベースのZigBeeモジュール「AM-201」を開発しましたが、おそらく世界でもっとも小さなZigBeeモジュールではないかと自負しています。また、WiMAX、無線LAN、あるいはBluetooth関連の引き合いも増えています。基本的には、下はRFIDで使われる13.65MHz帯程度の周波数から、上は無線LANで使われる5GHz帯まで、さまざまな周波数帯やプロトコルに対応できる技術力を備えています。
今回、IARとパートナーシップを組んでソリューション展開を図ったZigBeeモジュール「AM-205」について紹介してください。
木佐貫:「AM-205」は、ZigBeeプロトコルの国際標準規格であるIEEE 802.15.4準拠のMACおよびPHYを内蔵したCortex-M3プロセッサを、チップアンテナとともに、16.0mm×10.0mmの小さなボード上に実装したZigBeeモジュールです。TELEC(財団法人テレコムエンジニアリングセンター)の工事設計認証を取得していますので、お客様の量産製品にそのまま組み込むことができます。また、待機時の消費電力を0.8μA以下に抑えているため、乾電池やボタン電池で長期間に亘る動作が可能です。これと組み合わせる開発ボードの「AM-205EB」には、温度センサ、3軸加速度センサを搭載させていますので、センサネットワークの評価を簡易的に行う事ができます。
そもそもZigBeeにはどのような特徴があり、どのようなアプリケーションに適するのですか?
木佐貫:ZigBeeは免許を必要としない2.4GHz帯を使った近距離のワイヤレスネットワークのひとつです。データレートは250kbpsとそれほど速くありませんが。最大の特長は低消費電力化が図りやすいところにあります。たとえば、一般的な無線LANと比べて、送受信パワーはおよそ1/5から1/7程度しか必要としません。また、スリープ動作からの復帰に1秒ないし2秒もかかるBluetoothとは違って、ZigBeeは一瞬で起動します。そのためスリープ動作からの切り替えで無駄な電力を消費することがほとんどありません。こういった特徴を持つため、スマートビルやスマートハウスでの温度や明るさのセンシング、衝撃センサと組み合わせたセキュリティのセンシングなど、幅広いアプリケーションへの導入が始まりつつあります。
松田:当社のお客様でも、ZigBeeに限りませんが、計測器や家電系含めてワイヤレスアプリケーションを展開されるケースがすごく増えていると実感しています。ワイヤレスにすると電源ケーブルが邪魔になりますから、バッテリー動作が必要となり、その結果ローパワーのニーズが高くなります。ですから、ワイヤレスとローパワーの二点がお客様のニーズとして顕著です。「AM-205EB」はCortex-M3ベースですから、パワーを細かく制御できる点もメリットのひとつになると考えています。
機器メーカーが「AM-205EB」を製品に組み込む場合、どのような開発が必要になるのですか?
木佐貫:「AM-205EB」に搭載しているCortex-M3は、UART、SPI、I2C、A/Dコンバータ、GPIOといったさまざまな入力を備えていますので、接続するセンサやインタフェースに応じたボード設計と対応するソフトウェア開発が必要です。ZigBeeのID付与やチャネル設定などもソフトウェアで行います。これらプロトコルスタックを含めたソフトウェアはサンプルコードが提供されますので、そういった情報を参照しながらEWArm上で開発を進めていただくことになります。
win-winのパートナーシップを拡大。
両社がパートナーシップを結んだきっかけを教えてください。
松田:ZigBeeモジュール「AM-205EB」に搭載されているCortex-M3のSoCベンダーの方からエアマイクロさんを紹介されたのがきっかけです。当社はC/C++コンパイラ・デバッガ「IAR Embedded Workbench」を主力製品として展開していますが、お客様が開発現場で本当に必要としているツールやソリューションにより広く取り組んでいきたいという意向を以前から持っており、ZigBeeを広めたいとする木佐貫さんのお考えとも一致し、パートナーシップを結ぶに至りました。
木佐貫:無線モジュールを様々なアプリケーションに使用するためには、ソフト開発は必須のテーマです。その際、当社のソフトエンジニアからも使いやすいと好評である「IAR Embedded Workbench」であれば、多くのユーザーが効率よくZigBeeのソフト開発を行えると考え、「AM-205EB」にもIARさんのプラットフォームを採用しました。
今回はZigBeeのプラットフォームですが、IARでは今後どのような展開を考えているのですか?
村井:先ほども触れましたが、既存のプラットフォームはUSBやイーサネットのような特定の機能を評価するためのものでした。IARはこれからの展開として、エアマイクロさんのモジュールのように、よりお客様の製品に近いソリューションの種類を増やしていくことを考えています。まだ具体的なお話はできないのですが、あるパートナーさんが開発している標準的なFA用マザーボードに当社の「IAR Embedded Workbench」を組み合わせたソリューションも検討しています。このように、エアマイクロさんをはじめとするさまざまなベンダーさんとパートナーシップを組んで、お互いにwin-winとなるような循環を促すとともに、お客様のアプリケーション開発に役立つソリューションを展開し、開発期間の短縮や開発コストの低減に寄与していきたいと考えています。APSの読者様で当社とのパートナーシップにご興味を持たれたらぜひご一報をいただければと思います。
IARとパートナーシップを組むメリットはどのようなところにあるのでしょうか?
村井:ある市場調査によると、「IAR Embedded Workbench」やJTAG-ICE「J-Link」は、Cortex-M3プロセッサの開発ツールとしておよそ80%もの国内シェアを獲得しているといわれています(※)。つまり、IARのツールはArmプロセッサユーザーにとって標準のひとつであり、ソフトウェア開発者が慣れ親しんだ当社のツールをソリューションとしてパッケージングすることで、パートナーの皆様にとっても拡販の機会が増えると考えています。
松田:IARはスウェーデンを本拠としていますが、外資系のツールベンダーとしては珍しく日本法人を設けてきちんとした国内サポートを提供している点も、パートナーさんおよびお客様にとっての安心材料のひとつと言えるのではないでしょうか。また、グローバル・スタンダードともいえる「IAR Embedded Workbench」を開発環境に採用し、グローバル企業であるIARと協業することで、パートナーさんのワールドワイドでのビジネス展開も具体的に検討することが可能です。
そのほかに新しいトピックがあれば教えてください。
松田:2010年11月に、Cortex-M3およびCortex-M4を対象に、動作中の消費電力を見ながら開発ができる「Powerデバッグ」という新しい機能をリリースしました。「IAR Embedded Workbench」のバージョン6.10から搭載されています。現時点ではJTAG ICEから給電を受けるボードに限られるなど制約がありますが、高まる低消費電力化のニーズに応えるひとつの手段としてご活用いただければ幸いです。また、中長期的な方針として「IAR Embedded Workbench」にこだわらず幅広いツールに取り組んでいきたいと考えており、「こんな機能が欲しい」といったご要望やご意見をぜひお寄せいただきたいと思っています。スウェーデン本社では、お客様の声を集約し製品に反映するプロセスも確立されていますので、これからも皆様のご要望に応えていけるよう努めていきたいと考えています。
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