スマートフォン、ウェアラブル・デバイス、IoTなど、さまざまなアプリケーションで重要な役割を担っているのがセンサーだ。高性能なパワー半導体で知られるインフィニオンは、半導体センサーも高性能にフォーカスしている。自動車用タイヤ・プレッシャー・センサーや24GHz/77GHz/79GHzレーダーMMIC(モノリシック・マイクロ波集積回路)の実績をベースに、産業用およびコンスーマ用として、MEMSマイクロフォン、MEMS大気圧センサー、24GHz/60GHzレーダーMMIC、ToF(Time of Flight)センサーなどを提供。インフィニオンは、センシングデータに新たな価値を提供する。
集合写真(左より)
インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社 パワーマネジメント&マルチマーケット事業本部 RF&センサー 伊達 奈央 氏
インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社 パワーマネジメント&マルチマーケット事業本部 RF&センサー 担当部長代理 浦川 辰也 氏
インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社 パワーマネジメント&マルチマーケット事業本部 RF&センサー 課長 髙木 稔 氏
インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社 パワーマネジメント&マルチマーケット事業本部 RF&センサー 部長代理 荒井 康之 氏
インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社 パワーマネジメント&マルチマーケット事業本部 事業本部長 後藤 貴志 氏
目次
高性能・高機能なセンサーを展開。産業とコンスーマ市場に価値を訴求
――今日はセンサー・ソリューションをご紹介いただけるとのことで、インフィニオン テクノロジーズ日本法人の本社にお邪魔しています。
荒井:インフィニオンがセンサーを展開していることは、もしかしたらAPS読者の方にはあまり知られていないのではないかと思いまして、ぜひご紹介させてください。
――たしかに、インフィニオンがセンサーを扱っているというイメージはあまりありませんね。
荒井:実はインフィニオンでは以前よりセンサーを手掛けており、ビジネスとして規模が大きいものはオートモーティブ用のセンサーです。たとえばタイヤ・プレッシャー・センサーは世界トップクラスのシェアを誇ります。近年では、ADAS(先進運転支援システム)における24GHz/77GHz/79GHzレーダーMMICも業界をリードしています。本日ご紹介させていただくのは、注力製品である産業用やコンスーマ用として提供しているセンサーです。製品群は大きく5つあり、①「耳」にあたるMEMSマイクロフォン、②「触覚」にあたるMEMS大気圧センサー、③「目」にあたる24GHz帯および60GHz帯用レーダーMMIC、④ 同じく「目」にあたるToFイメージセンサーのほか、⑤「鼻」にあたるガス・センサーを開発中です(図1)。センサーの種類としては他のベンダーに比べて少ないかもしれませんが、インフィニオンの考えとして、幅広くセンサーを取り揃えるのではなく、業界トップクラスの高性能な製品にフォーカスして開発と市場開拓を進めています。インフィニオンは、チップ販売だけでなく採用しやすい製品形態も目指しています。たとえば、ボリューム・ゾーンの製品を展開しているモジュール・メーカーなどに向けたベアチップの供給もしており、インフィニオンがモジュール化したセンサー・モジュールとともにお客様へ提供しています。
SNR 69dBを実現したMEMSマイクロフォン。AIスピーカーなどへの応用が広がる
――それでは、さっそく製品を紹介してください。
伊達: まず最初に、MEMSテクノロジーを活用したマイクロフォンと大気圧センサーについて紹介します。インフィニオンは2008年からMEMSマイクロフォンを提供しています。当初は、バックプレートが1枚のシングル・バックプレート型を提供していました。のち、2012年には性能を高めたデュアル・バックプレート型を発売し、現在はMEMSマイクロフォン市場における30%以上のシェアを獲得していると見ています。2018年1月に提供を開始した最新のMEMSマイクロフォンは「XENSIVþ(センシブ)」というブランドの「IM69D130」です。製品型番はスペックを表しています。信号対雑音比(SNR:S/N比)は69dBで、最大入力音圧レベルはロックコンサートの音量に匹敵する130dBSPLという、MEMSマイクロフォンとしては市場でもっとも優れた性能を備えています。低ノイズ・プリアンプとΔΣ型A/Dコンバータとともに4mm×3mm×1.2mmのパッケージに封止しています。
髙木:音量は距離に反比例するため、理論上はSNRが6dB高いと、2倍離れたところの音を拾うことができます。IM69D130は競合他社のMEMSマイクロフォンに比べて数dBほどSNRが高いため、たとえばスマート・スピーカーに応用した場合に、発話者とスピーカーとの距離を他社品に比べて1.5倍から2倍に広げることができます。XENSIV MEMSマイクロフォンは周波数特性にも優れています。3dBのロールオフをみると、低音域は28Hzから、高音域は10kHzまでほぼフラットな特性となっています。また、XENSIV MEMSマイクロフォンは製造時に感度バラツキが少なくなるよう調整しています。こうした製造により、一般的なマイクロフォン製品と違って特性ばらつきがなく、性能だけでなく扱いやすさも魅力的な製品となっています。
――アプリケーションとしては、やはりスマート・スピーカーなどを考えているのですか?
伊達: そのとおりです。AIと連携したスマート・スピーカーはもちろん、音声認識機能を搭載するテレビ、セットトップボックス、スマートホーム、スマートフォンなどにもフォーカスしています。また、音の入力からセンサーの信号出力までのレイテンシが小さい特長から、時間制約の強いアプリケーションであるアクティブ・ノイズ・キャンセラーにも採用できます。産業用途では、機械や設備の異音検出といった保全用途をはじめ、カンファレンス・システムへの応用が考えられます。
±5cmの標高差を検知する大気圧センサー。ドローンの姿勢制御にも使われる
伊達: 業界トップクラスのシェアを誇るMEMSマイクロフォンで培ったMEMS技術とタイヤ・プレッシャー・センサーで培ったパッケージング技術を応用した製品がデジタル気圧センサー「DPS310」です。高気圧を上回る1,200hPaからエベレスト山頂の気圧に匹敵する300hPaまでの気圧範囲に対応し、精度±5cm(±0.005hPa)(高精度モード時)、絶対正確度±1hPa(±8m)、相対正確度±0.06hPa(±0.5m)で計測できるのが特徴です。ただ計測するのではなく、高精度モードや、消費電力を抑えるローパワー・モード、標準的な使い方を想定したスタンダード・モードの動作モードを設けることにより、幅広い用途へ利用することができます。
――どういったアプリケーションが想定されますか?
伊達: ウェアラブル・デバイスはもちろんですが、高精度に高度を計測できる特長から、ドローンのホバリング制御にも使われています。産業用としては、圧力容器(チェンバー)内の気圧測定など計測装置にも活用できるため、IoTにも応用できると考えています。また、コンスーマ向けの身近なアプリケーションに適しています。体の上下動から生まれる気圧のわずかな変動も計測できることから、歩数計のような応用も考えられます。インフィニオンの大気圧センサーを利用した歩数計のデモ動画はYouTubeのInfineonJPチャンネル(YouTube内で”インフィニオン 伊達”と検索)で公開しています。加速度センサーとはまた違った使い方になるので、ぜひご覧になってください。
注目が集まる広帯域の60GHzレーダー。非接触でのセンシングに期待
――なるほど、気圧を応用した新しいサービスやセンシングが発想できそうですね。さて、次のソリューションをお願いできますか?
浦川:それでは私から24GHz帯および60GHz帯のレーダーソリューションについてご紹介します。レーダーを使ったセンシングは、たとえば衝突被害軽減ブレーキでの障害物検知に使われているのはご存じのとおりで、さらに最近は側方や後方などのセンシングにも使われています。レーダーは明暗や気温に左右されないという性質のほかに、物質によっては透過するため、目立たないようにバンパーの内部に組み込むことも可能です。自動車には24GHz帯と77GHz/79GHz帯が使われていて、それぞれのMMICにおいてインフィニオンは世界トップクラスのシェアを獲得しています。一方で産業用およびコンスーマ用として提案するのが24GHz帯向けおよび60GHz帯向けのレーダーソリューションです。現在24GHz帯MMICを量産出荷しておりますが、60GHz MMICは2019年にリリース予定、また24GHzに関しては、より高性能なMMICを開発中です。アプリケーションとして大きな可能性を秘めているのは60GHz帯です。24GHz帯は帯域が0.2GHzに限定されたナロー・バンドですが、60GHz帯は7GHzもの広い帯域が使えるため、きわめて精度の高い検知が可能です。インフィニオンではGoogleのATAP(Adavanced Technology And Projects)と、手のジェスチャを60GHzレーダーで検知する画期的なユーザー・インタフェースの共同研究を行っています。また、スコットランドのセント・アンドルーズ大学では、物体の素材や形状によって電波の反射が異なることを利用して60GHzレーダーのモジュールと機械学習とを組み合わせて物体を分類する研究が進められています。こうしたプロジェクトは、インフィニオンの60GHzレーダーの高精度な特性が大きな鍵になっています。このほか、着衣のまま脈拍を検知するバイタル・モニターや、高精度な人感センサー、工場作業員の安全モニタリングなど、いろいろな応用が考えられます(図2)。
――可能性が広がりますね。
浦川:もちろん課題もあり、日本では60GHz帯で占有できる帯域は、2018年現在で0.5GHzに制限されているため、米国、欧州、中国のように7GHz前後の帯域をフルで使うことができません。今後、同技術を搭載した製品の販売が世界中で開始されると日本に持ち込まれるケースも多発することが予想され、当社としても一刻も早い電波法の改正に期待を寄せています。共に推進してくれるパートナー様が増えると、より実現に近づけます。
高性能なセンサーの提供を通じて、顧客とともに課題を解決
荒井:最後にToFセンサーをご紹介したいと思います。先ほど浦川が説明したレーダーは電波を使いますが、ToFは可視光または赤外光の到達時間から対象物との距離を測定します。2次元の画像データと距離を測定するには、他社のソリューションでは2回の撮像が必要ですが、当社の3Dイメージセンサー「REAL3þ」は1回の撮像で済むため、短時間、低消費電力、そして動きによる誤差が生じないという特長があります。GoogleのAR技術「Tango」プロジェクトにも採用されたほか、ASUS社のZenfonやLenovo社のPHAB2 Proなどのスマートフォンにも搭載されています。ToFセンサーを利用することにより、撮影した画像に奥行き情報が加えられますので、精度の高い顔認証アプリケーションの実現や、ARやVRへの応用が可能です。
――インフィニオンが高性能なセンサーにフォーカスしていることがよく分かりました。気圧センサーを使った歩数計や、60GHzレーダーを使ったジェスチャ認識など、これまでにないアイディアにさまざまな可能性を感じます。ところで産業用途としてはどのような展開を考えているのですか?
荒井:産業用途では、やはりIoTがひとつのアプリケーションになると捉えています。たとえば、機械や設備の予防保守として、XENSIV MEMSマイクロフォンを利用して異音を検出することを考えています。また安全性確保のため、レーダーで作業者の動きを検知することなど、多くのシーンでご活用いただきたいと願っております。
――最後に、APSの読者に向けてひとことお願いします。
荒井:冒頭でも触れたように、インフィニオンではあらゆる範囲のセンサーを取り揃えるのではなく、高性能・高機能なソリューションに的を絞って提供し、お客様の課題を一緒に解決していきたいと考えています。複数のセンサーを使用した機能アルゴリズムの開発なども行っておりますので、産業とコンスーマの双方で、さまざまなアプリケーションの実現にインフィニオンのセンサーを活用していただければ嬉しく思います。Arm® Cortex®-Mプロセッサを搭載した32ビット・マイコンはもとより、他社のマイコン、プラットフォームでもご使用いただけるよう、積極的にサポートの範囲を広げています。是非いろいろなところでご活用ください!
――本日はありがとうございました。
APS EYE’S
パワー制御をリードするインフィニオンは、繊細な半導体センサーでも強さを見せる。SNRの高いMEMSマイク、数センチ差を感知する大気圧センサー、人感検出も可能なレーダー製品は高精度で小型の採用しやすい製品だ。リアルの情報を的確に収集するIoT時代の新しい眼となりそうだ。
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