Nuvoton Technology Corporation(以下、Nuvoton)は、2000年からArmパートナーとなり、Armコアを搭載したマイコンを開発・提供してきた。その最新Armマイコンとして注目を集めているのが、Cortex-M0を搭載した「NuMicro Family」である。ここでは、Nuvotonの概要、同社の製品の概要を紹介する。
目次
IC産業において唐代の繁栄を再現する
Nuvotonは、台湾に本社がある半導体ベンダーのウィンボンド・エレクトロニクスから2008年7月に分割された(日本では分社していない)。その分割に際し、ウィンボンド・エレクトロニクスのロジックIC事業の製品ライン、コア技術、提携パートナー、クライアントを引き継いでいる。
Nuvotonは「Nuvo」と「Ton」の2文字からできている。「Nuvo」は「新しい」(Nouveau)というフランス語の発音に近く、また「Ton」は唐朝の唐(Tang)という英語の発音と似ている。唐朝は中国の歴史上最も栄えた時代のひとつで、国際文化交流、経済貿易、科学技術の刷新において目ざましい成果をあげて、世界の中心となっていた時代である。
Nuvotonは、卓越したイノベーション精神とユーザーとの緊密な関係、そして世界から集まった人材によって、「業界リーダにとって不可欠なパートナーになる(Be an indispensable partner to industry leaders)」というビジョンの実現を目指している。それと同時に、IC産業において唐代の繁栄を再現しようとする精神を象徴している。これが漢字表記の社名”新唐科技”のゆえんであるという。
さらに同社は厳しい生産工程コントロールと品質管理体制を構築することで歩留まりを上げ、日本の顧客を満足させる品質管理にも注力している。
独自のCPUアーキテクチャに依存することはリスクにつながる
拠点は、台湾、アメリカ、中国、イスラエル、日本にあり、全世界で約1,500名の従業員がいる。事業グループとして、マイクロコントローラ・アプリケーション・グループ、オーディオ・アプリケーション・グループ、クラウド&コンピューティング・グループ、ファウンドリ・サービス・グループがある。それぞれのグループは、ファウンドリ・サービスを除き、①マイクロコントローラ・アプリケーションIC、②オーディオアプリケーションIC、③クラウド&コンピューティングICに大別される。
①のマイクロコントローラ・アプリケーションICには、Armマイコン、8051互換の8051マイコン、Arm SoC、Toy / ELA、スモール・ホーム・エレクトロニクスがある。
②のオーディオアプリケーションICは、ISD音声録再IC、Audio CODEC、ADC、DAC、アンプを含むemPowerAudio、ArmオーディオSoC、電話用IC(Voice CODEC)、オーディオ・エンハンスメント(MaxxAudio)などがある。
③のクラウド&コンピューティングICは、Super I/O、GPIO、ハードウェアモニターIC、レベルシフトIC、電源管理IC、バスインタフェースブリッジIC、組み込みコントローラおよびノートパソコン用キーボードコントローラ、TPM(Trusted Platform Module)対応のセキュリティICなどがある。
開発拠点の中心は台湾にあり、Armマイコンを中心に開発を行っている。セキュリティICやPC用組み込みコントローラなどはイスラエル、ISD製品などはアメリカで開発している。
Armアーキテクチャの採用理由として小野氏は「ユーザー側も、開発・製造を担う半導体メーカー側も、よほどの理由がない限り、これからは、インテル以外の独自アーキテクチャに依存する価値は相対的に減少傾向をたどり、供給リスク回避のためにも、選択肢の多いArmのようなデファクトスタンダード化されたアーキテクチャがユーザーに多く採用される時代になります。日本のお客様の多くは慎重にマイコンを選ぶ傾向が強いのですが、コスト意識が高いのも事実です。そのようなニーズが高まる中、低コストでも高性能なArmマイコンが当たり前に使われる現場が増えていくのは明らかです」と語る。
さらに、「Armのメリットと強みは、すでにデファクトスタンダード化したArmのアーキテクチャが、多くのアプリケーションで採用されていることにあります。数多くの企業が、ここにビジネスチャンスを見出して、新規に参入したり、活発に活動することにより競合関係を生みながらも、次々とパートナーを増やしています。この状況は、ユーザー側から見てもメリットがあるため、その市場は成長を続けているのではないでしょうか」(小野氏)という。
NuMicro Familyとして123品種をラインアップ
Nuvotonのマイコンは、1993年に8ビットの8051からスタートした。「Armマイコンは、2000年に最初のArm7TDMIコアを使った製品の開発からスタートし、2002年にはArm926EJ-Sコアを使った製品の開発を実施しました。現在も両方のArmコア製品の開発と生産は継続しています。さらに2009年には、Arm Cortex-M0のライセンスを受け、製品リリースを開始しました」(小野氏)。現在のマイコン構成は、8ビットの8051、32ビットのNuMicro Family、NUC500およびNUC700、さらにNUC900がある。
8051はインテルの8051互換マイコン、NuMicro FamilyはCortex-M0を搭載したマイコン、NUC500およびNUC700はArm7(7TDMI)を搭載したマイコン、そしてNUC900はArm9(Arm926EJ-S)を搭載したマイコンである。
Nuvotonでは、Cortex-M0を搭載したNuMicro Familyとしてすでに123品種をラインアップしている。これだけのCortex-M0マイコンをラインアップしているのは、Cortexシリーズの中でも初めからCortex-M0にフォーカスしてきたからで、今年もさらにラインアップを強化していく予定である。
これまで同社全体のNuMicro Familyの出荷実績は、2010年に50万個、2011年には1,500万個、2012年には2,300万個を達成、そして2013年には3,000万個を目標にしている。この実績の数字は全世界でトップクラスの数字であり、特に中国への出荷数が多い。「Nuvotonが中国市場に強い大きな理由として、台湾に本社があり中国に対して言葉の壁も低く、サポートが円滑に行えることが採用理由のひとつです。また、1993年から8051マイコンを手がけてきており、組み込みシステムのマイコンやソフトウェアを熟知している点も大きいですね」(小野氏)という。
その実績をベースにArm7やArm9を手がけ、さらにCortex-M0へ進み、M051 Seriesを筆頭にNUC100 Series(NUC100、NUC120、NUC122、NUC123、NUC130、NUC140)、NUC200 Series(NUC200、NUC220)を次々とリリースしてきた。中でも最もコストを抑えた製品がMini51 Seriesである。Mini51ZBNで、20,000個/ロットの注文で$0.43を実現した。最新製品としてNano100 Ultra Low Power Seriesをラインアップした。
米国大手の電子書籍リーダーや国内メーカーのタブレットにも採用
最も出荷数量が多いアプリケーションとして、タッチパネルやタブレットPCのタッチ部分のコントローラがあげられる。Cortex-M0を搭載したNuMicro Familyは、電源管理やスイッチパネルの制御といったサブマイコンとしての採用例も多くみられ、電子書籍リーダーをはじめ、国内メーカーのタブレットPCにも採用されているという。採用された理由としては、コストパフォーマンスは当然だが、顧客のニーズに合った仕様を早期に取り込んだことも大きな理由である。
低消費電力化を図ったNano100 Ultra Low Power Series
NuMicro Familyの中で特に低消費電力化を図ったシリーズが「Nano100 Ultra Low Power Series」だ。Nano100 Base Line、Nano110 LCD Line、Nano120 USB Line、Nano130 Advanced Lineがラインアップされている。品種によってチャネル数は異なるが、図3右側のペリフェラルは、すべての品種に搭載されている。
最も基本となるのがNano100 Base Lineである。最大128Kバイトのフラッシュメモリ、最大16KバイトのSRAMを搭載し、16チャネルのタッチパネル対応などを基本機能とし、各種ペリフェラルが搭載されている。
Nano110 LCD LineはNano100 Base Lineの基本機能に加え、LCDドライバを内蔵。Nano120 USB LineはUSB2.0フルスピードを特徴とし、Nano130 Advanced Lineは、USB2.0フルスピード+ LCDドライバが追加されているものだ。
「いずれも1.8V~3.6Vの単一電源で動作することから、使い勝手は抜群です。しかも、超低消費電力のため、多くのバッテリ駆動システムに向いています。ペリフェラルとして12ビットのADコンバータに加え、同じく12ビットのDAコンバータを内蔵しています。さらに、ISO7816-3のスマートカードインタフェースを3チャネル搭載していることも特長でしょう」(ワギー氏)。Nuvotonのホームページからカタログをダウンロードできるので、数多くの品種について細かな違いを確認しやすい。
独自の評価ボードと開発ボードを提供
Nuvotonが提供する開発環境は、多くのArmマイコンと同じくMDK-ArmやIAR社のツールを活用できる。さらにNuvotonからは、評価ボード(SDK)の「Nu-Tiny(ニュータイニー)」が提供されている。
「Nu-Tinyにはボードに加え、評価版のMDK-ArmやIAR社のコンパイラが内蔵されたCD-ROMが付属しています。Nu-Tinyはミシン目が入っていて、そこでホストPCとのインタフェースとなる部分とターゲット部分に分割できます。ターゲット部分をブレットボードやプロトタイプに搭載したり、接続することで評価環境を構築できます。ボード間はシリアルで接続し電源さえつなげば直ぐにでもデバッグできますし、1枚千数百円から購入できるので手軽です」(ワギー氏)。
「Arm社のビジネスモデルは、Armコアのアーキテクチャを中心に、開発環境、ソフト開発、ハード開発、半導体など水平分業的なスキームが整っていますので、それぞれの得意分野を持つパートナー企業の力を発揮できます。弊社のパートナーは、実績のある企業ばかりですので、安心してお客様へご紹介できます。すでに協業体制ができていますので、急な連携が必要な場合でも対応可能です。もちろん今後も信頼できるパートナーを増やして、お客様の多様なニーズにお応えしていきたい」と小野氏は、エコシステムの充実を語った。
代理店との連携を強化し、きめ細かなサポートを提供
マイコンを選定する際にポイントとなるのがサポート体制の充実である。Nuvotonは、①Q&Aサポート、②フィールドエンジニアによるサポート、③マイコンの技術的なサポートという三段階で、きめ細かな対応をしている。
①のQ&Aサポートは、主に販売代理店が窓口となり、ユーザーとの質疑応答で製品を知ってもらうためのものだ。ちなみに国内の販売代理店は、エー・ディ・エム株式会社、OSエレクトロニクス株式会社、高千穂交易株式会社、佐鳥電機株式会社、マイクロサミット株式会社 (順不同)の5社である。
②のフィールドエンジニアによるサポートは、①の段階から一歩進んで評価ボードやサンプルチップで評価したいというレベルでのサポートになる。ここでは、Nuvotonのフィールドエンジニアが代理店のフィールドエンジニアと連携してサポートを行う。具体的には、ユーザー先に出向いたり、電話や電子メールでの対応となる。
③のマイコンの技術的なサポートは、主にマイコンの使い方に関するものとなる。マイコンはアプリケーションによって使い方がまちまちなので、データシートだけでは分からないことも多い。
小野氏は、「本社技術サポートへの問い合わせ窓口は、われわれがしっかり行っていきます。返答時間は質問内容にもよりますが、一般的な内容であれば24時間以内に回答するようにしています。また、時間を必要とする質問であれば、まずは中間報告をしっかりやり、最終回答時期を明確にしています」とのことだ。
欧米メーカーと比べ物理的・心理的距離感が近い
「日本と台湾では時差が1時間しかなく、担当者が電話でつかまりやすいことや、行き来も手軽です。また、非常に親日家が多く、欧米メーカーと比べ物理的な距離や親近感も大きなメリットでしょう」(小野氏)。さらに製造についてのサポートもポイントになる。最近は中国で生産するメーカーが多い中、中国の製造拠点へのサポートを台湾から受けられるというのは、言語的にもメリットが大きい。日本からのサポートと台湾からのサポート、どちらかを選べるのも利点である。
NuMicro Familyは、コンシューマ、スマートTVのリモコン、産業用、モバイル、セキュリティ、ZigBee搭載システム、自動車のETCなど多くの採用事例がある。今後は、①モータ制御に特化したマイクロコントローラ(MT510、MT520、MT530、MT550)、②内蔵フラッシュメモリの高容量化と機能強化(NUC150、NUC170)、③自動車関連への対応強化をすることで、ラインアップを充実していく。
①のモータ制御は、家電や電動工具などが主なアプリケーションと考えている。②の内蔵フラッシュメモリの高容量化として2013年後半には512Kバイトの製品のリリースを計画している。さらに機能強化の一例として、Ethernetの機能の取り込みも考えている。③の自動車関連は、情報系を狙っていく。すでにETCやレーダーディテクタなどへの採用実績も積んできた。
最後に小野氏は、「Nuvotonに興味を持たれた方は、ぜひ弊社のホームページへアクセスしてみてください。2013年の計画として、まずは6月に『ET West 2013』へ出展します。APSでも定期的に情報を発信していきますので楽しみにしてください」とまとめた。
Nuvotonは、前述のように世界トップクラスの出荷数を持つなど、今後の活躍が期待される半導体メーカーである。
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