かつてx86互換のCPUやチップセットで知られた台湾のVIA Technologiesは、半導体ベンダーから組み込みシステムベンダーへと変身を遂げつつある。自社でSoCを開発している技術力を生かし、ハードウェア(ボード)からソフトウェアまでをトータルに提供できるのが強みだ。組み込みAndroidを使った小ロットのカスタム開発も得意とするという。日本法人のお二人に話を訊いた。
集合写真(左より)
VIA Technologies Japan株式会社 エンベデッド事業部
(前列左から)
プロダクトマーケティングマネージャー Cody 世羅 氏
アドミニストレータ 片山 静 氏
部長 ビジネス開発担当 増田 嘉幸 氏
(後列左から)
セールスマネージャー 相川 悦丈 氏
FAE Nick 高 氏
セールスエンジニア 小間 拓実 氏
目次
x86互換のイメージはもう古い 変貌を遂げるVIA Technologiesのビジネス
――VIA Technologiesといえばインテルの互換CPUやチップセットのベンダーというイメージが強く頭に残っているのですが、あらためて、会社の概要について教えてください。
増田:VIA Technologiesは半導体の設計開発や組み込みシステムの設計製造を行っているファブレス企業です。1987年にカリフォルニア州フリーモントで創業し、その後1992年に本社を台北に移しています。創業者で現在は会長のCher Wangは台湾を代表する女性実業家で、台湾最大の民間企業グループである「台湾プラスチックグループ(Formosa Plastic Group)」の創業者だった故・Wang Yung-ching(王永慶)氏の御令嬢ですが、VIA Technologiesだけではなく携帯電話で著名なHTCを含め、さまざまな会社を所有しています。ご質問にもありましたが、VIA Technologiesは1990年代後半から2000年代前半にかけてインテルの互換CPUとチップセットを開発して、特にチップセットは低消費電力かつリッチな機能を持たせながら低価格で提供できたことによって好評を博した製品でした。その後、センター(CenTaur)テクノロジーの買収を経て、VIA Technologies製のx86アーキテクチャ互換CPUを開発することになり、自社製のCPU及びチップセットのビジネスを展開させることになりました。現在はx86系のCPUやチップセットも作っていますが、当時とはビジネス・スタイルは一変しています。
――現在はどういったビジネスがメインなのでしょうか。
増田:従来はx86系のCPUやチップセットといった半導体製品の設計と販売を中心としておりましたが、現在はArmアーキテクチャSoCを搭載したボードに、安定したカーネルとデバイスドライバで構成されるBSP(ボードサポートパッケージ)をトータルに提供できるという点が、VIA Technologiesのコアコンピタンスになります。
Cody:LinuxやAndroidのカーネルやデバイスドライバ周りは全て自社にて提供できることをはじめ、もちろんサポートも万全です。お客様で問題が起こったときに、技術的な問題のすべてを社内で解決できる。そういったところは、半導体だけを提供しているベンダーや、半導体を調達してボードとして提供しているボードベンダーとは大きく違うところです。
増田:われわれは半導体を自社で設計できる技量があり、そのノウハウを活かして、SoCのパフォーマンスを最大限引き出せるようなソフトウェアを開発できるというところが強みだと考えています。パフォーマンスを最大限引き出せるということは、すなわち技術サポートもできるという意味ですから、中身をしっかりと理解した上でボードやソリューションを提供している会社としてご記憶いただければと思っています。台湾にもさまざまなボードベンダーが存在しますが、問題が起こればボードベンダーだけでは解決できずに、そこに搭載されているSoCのベンダーにも問い合わせないといけないはずです。それに対してVIA Technologiesは基本的にすべて社内で解決できる。そこは大きなポイントですね。
――互換CPUやチップセットのイメージが強かったVIA Technologiesが、現在では組み込みシステム全体まで提供していると知って意外な感じを受けました。半導体も引き続きビジネスとしてはやっているのでしょうか。
増田:もちろんx86系のCPUとチップセットは継続しています。組み込みマーケットに特化するという意味合いもあり、x86アーキテクチャに加えてArmアーキテクチャのSoCのラインアップに加え、先ほど申し上げたようなシステムの開発も手がけております。
Cody:少し補足しますと、当初はx86アーキテクチャ互換CPUを開発していましたが、業界のトレンドとしてはパワフルな方向にCPUを進化させようとしていました。しかし、我々はハイパワー・ハイパフォーマンス路線をあえて追随せず、チップセットにグラフィックス性能を強化することにより、CPUの負担を大幅に削減しシステムとして超低消費電力を売りとした路線への戦略に展開しました。現在はx86はもとより、Armも手掛けていますが、ローパワーという戦略はブレずに一貫しています。
増田:コーディが申し上げたとおり、CPUで高速に処理する方向にはシフトせず、姉妹会社のHTCの傘下となったS3 Graphicsの2D/3Dアクセラレータを組み合わせて、CPUの処理をオフロードして全体の消費電力を抑えるようなアプリケーションをターゲットにしています。ArmアーキテクチャのSoCは、子会社のWonderMediaでは以前から開発しているため技術的な造詣も深く、各社のタブレットなどにも搭載されています。2013年からはVIA Technologiesブランドで「Elite」シリーズというSoCで提供するようになりました。S3 Graphicsのアクセラレータを統合していて、メディカル機器やPOSのようなディスプレイ付きの産業用途をターゲットとしております。
小ロットの開発に強みを発揮 Androidの組み込み応用にも対応
――後半では、先ほど説明のあったボードやシステムの開発について伺いたいと思います。
増田:まずVIA Technologiesの強みを理解していただければと思います。①自社でSoCを開発できる技量、②そのSoCの性能を最大限に引き出すデバイスドライバやBSPを自社で開発できること、③2D/3Dアクセラレータやビデオのエンコーダ/デコーダを持っている、④AndroidとLinuxに精通し、その技術サポートが万全である、⑤お客様が設計リソースを掛けにくく、かつ、通常のベンダーでは二の足を踏む、年間数千台程度の規模のアプリケーションをサポートできる。この5つのポイントに集約できます。(図1)マーケットは製品の登場を待ってくれるわけでもなく、優れた製品を早い段階でユーザーに届けなければビジネスは成り立ちません。VIA Technologiesは、お客様のTime-To-Marketをサポートしています。そこでVIA Technologiesが、ハードとソフトの両方を手がけますので、初期開発段階の設計は任せてもらいたいと考えています。お客様は、その上のアプリケーション作成やサービス開発に注力してくださいと常々申し上げております。VIA TechnologiesはSoCを開発できる技量があり、そのSoCの性能を引き出すソフトウェアが作れます。グラフィクスアクセラレータもあり、Androidを採用したい場合でも心配ありません。なによりも、小ロットの案件にも対応していますので、これら多くの点で他の設計会社やボードベンダーと比べた時の差異化要素といえます。
Cody:去年まではAndroidの案件が研究あるいは試作で止まってしまうケースが多くみられましたが、今年は実際に製品化を検討している案件がかなり増えてきています。一つの例を挙げますと、VIA Technologiesのパートナー様が展示会に急遽出展することになり、Androidでスマートパーキングのデモを作ることに決めました。操作画面のユーザーインタフェースが簡単に開発できることがAndroid OSを採用した一番の決め手だそうです。またスマートパーキングに必要な入出庫時のLED点滅、ゲート開閉などのI/O管理は 「SMART ETK」というAPIによって1週間ほどの短期間で開発に成功しました。実際タッチパネルを使って人間が操作するHMI系の組み込みシステムにAndroidで開発したいとの相談が非常に増えています。
増田:組み込みシステムをAndroidで構築したいというお客様は多いのですが、Androidはスマートフォンやタブレット用に開発されたOSのため、SATAやGPIOのデバイスドライバが用意されてないのが実情です。また、Androidのバージョンが上がりフレームワークが変わった場合には、再度作り直さないといけません。われわれは標準で用意されていないデバイスドライバも開発できますし、フレームワークに依存せずデバイスドライバ資産を活用できる「SMART ETK」というデバイスドライバへ直接アクセスできるAPIを準備しております。次はAndroidを使ってみたい、でも相談できる会社が見当たらない、というお客様に対して、VIA Technologiesなら開発期間短縮と開発コスト削減でお応えできます、とアピールしたいですね。
Cody:Androidを組み込みに使おうとした場合にセキュリティを心配されるお客様もいらっしゃいますが、外部アプリをダウンロードする「Google Play Store」機能を外したクローズドなプラットフォームとして構築すれば、十分セキュアに動かすことができます。そこは民生でのAndroidのイメージとは少し違います。
――先ほどの5つの強みの中で、「年間数千台程度の規模のアプリケーション」というキーワードがありました。
増田:組み込みの世界は、小ロットでの開発や製造がとても多いと思います。しかしながら数が出ない場合、開発費やエンジニアもあまり回せず、開発期間も短縮してコストを抑えなければならない。そういったニーズにセミ・ターンキー的なソリューションを提供するのがVIA Technologiesの役割だと思っており、年間5000台や1万台、2万台が目標といったお客様を非常に大切にしています。実は受注している開発案件の3/4以上がカスタム案件です。製造だけでなく設計までも外部に委託する、いわゆるODM(Original Design Manufacturing)です。中にはVIA Technologiesでアプリケーションまで開発してください、あとはうちでロゴをつけて出しますから、というお客様もいらっしゃいます。
開発期間と費用の悩みをVIA Technologiesがまとめて解決
――説明を伺って、VIA Technologiesという会社のイメージがずいぶん変わってきたように思います。カスタム案件が主体ということですが、標準的な製品もいくつか紹介していただけますか?
Cody:Armベースのシングルボードコンピュータとしては3つのシリーズを用意しています。「VAB-1000」シリーズはVIA Technologiesの「Elite」を搭載したボードで、S3のグラフィックアクセラレータを内蔵しているためデジタルサイネージなどに活用されています。「VAB-820」はNXPのSoCを搭載したボードで、用途はインダストリアル一般です。顔認証システムやM2Mゲートウェイなどに採用実績があります。「VAB-600」シリーズはWonderMediaのSoCを搭載しており、コストパフォーマンスが重視されるような分野に適しています(図2)。
――技術サポート体制について教えていただけますか?
増田:VIA Technologiesは日本で設立して10年以上経っています。日本オフィスにはお客様の問題に即対応できるFAE、製品担当がいます。またVIA Technologiesの代理店様およびパートナー様にもVIA Technologiesエンジニアと同等のスキルレベルによるサポートが提供できるよう体制を整えて貰っております。そのため10年以上お付き合いをさせていただいているお客様が非常に多いわけです。
――「新しいVIA」と言ったら語弊があるかもしれませんが、今のVIA Technologiesを表すとしたらどういう表現が適切でしょうか。
増田:今日お伝えしたかったキーワードを挙げると、「インダストリアル」、「小ロット」、「組み込みAndroid」、「カスタム開発」といったところです。なによりも、開発期間と開発費用でお困りなら是非ご相談ください、というところはお客様にお伝えしていきたいと思っていますし、VIA Technologiesはもはや互換CPUだけの会社ではない、ということを理解していただければ幸いです。
――なるほど、キーワードを並べるとまるでtwitterのハッシュタグのようですね。ありがとうございました。
APS EYE’S
Androidが組み込みシステムのOSに取って代わるかもしれない。それは、流行っているからではなく、環境が整いつつあるからだ。ハードも、ソフトも、サポートもだ。アプリ開発に注力できるということは、大きなコストメリットになるだろう。
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