寄生容量(浮遊容量)を考慮して、正しく分圧する方法を学ぶ

交流信号のような周波数成分を伴った信号源を分圧する場合、抵抗だけで分圧すると、期待した波形にならないことがあります。それは、周波数を伴うとリード線や配線に含まれる容量性の負荷が影響するためです。一般的には、「浮遊容量(ふゆうようりょう)」もしくは「寄生容量(きせいようりょう)」と呼ばれています。

今回は、この寄生容量もしくは浮遊容量(今回の講座では「寄生容量」に統一して進めます)を考慮して、正しく分圧するための方法を学びましょう。

周波数補償された分圧とは?

周波数補償された分圧とは何か?を考えてみましょう。

ここに、1MOhmの抵抗を直列に2つつないだ分圧回路があります。分圧比は、1/2です(図1)。この回路の場合、入力Vsはそれぞれの抵抗でV1およびV2の電圧が同じ比率で分圧されるので、1/2のVsが取り出せるということを意味しています。この回路に、500Hzの矩形波の信号を入れてみましょう。

図図1:抵抗の分圧回路

信号源VsからR1で取り出せる電圧をV1、R2で取り出せる電圧をV2とすると、

\(V_S = V_1 + V_2\)

となります。

信号源Vs(入力信号)に対する出力電圧V2(出力信号)の関係を表す時に、伝達関数H(jω)といいます。この回路の伝達関数H(jω)は、

\(伝達関数H(jω)=\frac{V_2}{V_S}=\frac{R_2}{R_1+R_2}\)

で表せます。

抵抗分圧器の伝達関数は、理想的な抵抗であり、回路に起因する寄生容量が無視できるほど小さい場合にのみ周波数の依存がありません。しかし、実際には寄生容量が影響してきます。まずは、LTspiceを使用して、理論通りに分圧されるのか確認していきましょう。

LTspiceの場合

図1の回路をLTspiceで確認してみます。入力された信号源の電圧に対して、1/2の電圧が観測できます(図2)。

図図2:LTspiceによる分圧回路の波形

ADALMの場合

同じように、ADALMで見てみましょう。ADALMの場合は、内部に1Mohmの抵抗が内蔵されているのがわかっていますので、1Mohmの抵抗を一つ接続します(図3)。ADALM1000のアナログ入力の仕様はこちらで確認できます。

図図3:ADALMの場合の分圧回路

これでLTspiceの回路図と同じ条件になりました。ここで、LTspiceと同様に、入力された信号源に対して、約1/2の電圧になっていることが確認できます(図4)。緑色の波形が矩形波の入力信号です。オレンジ色が、分圧された信号です。

図図4:ADALMの場合の分圧回路の波形

ここでのポイントは、オレンジ色の矩形波の波形です。よく見ると、立ち上がりが緩やかになっています。これは、いままで学んできた時定数が絡んでいると考えられます。

時定数が絡んでいるということは、周波数に依存した容量性の負荷が、波形に影響を及ぼしていると言えます。これが寄生容量です。この寄生容量は、どのくらいの容量なのかを調べてみましょう。

時定数と寄生容量

寄生容量がどのくらいの容量をなのかを調べるのは、なんだか難しそうに聞こえます。しかし、時定数を理解していれば、それほど難しくはありません。まずは、時定数を調べてみましょう。

時定数の調べ方

ADALMの分圧波形では、立ち上がりが緩くなっていました。回路上に容量性の負荷があると理解できますので、どのくらいの周波数で変化をするのか調べます。

この時使うのが、ボード線図です。前回のフィルター回路でも利用しました。今回も使ってみます。調べる帯域は、10Hzから10KHzまでの周波数特性を調べてみます(図5)。

図図5:ADALMによる分圧回路の周波数特性

このグラフからは、約920Hz辺りから信号が減衰していることがわかります。つまり、周波数と抵抗値がわかれば、下記の式よりどのくらいの容量が関係しているかがわかります。

\(f=\frac{1}{2\pi RC}\)

この式からは、およそ176pFと算出できます。

では、この容量が正しいかどうかをLTspiceで確かめてみましょう。LTspiceで176pFを指定した時の波形です。

図図6:ADALMの寄生容量をシミュレーション

図4のADALMの分圧波形に近くなりました。LTspiceの回路図C1(176pF)がADALMのCH_Bから全体に挿入されている容量と言えます。ここで注意しなければいけないのは、176pFのコンデンサそのものが入っているということではないことに注意する必要があります。ADALM1000自体のアナログ入力回路はこちらに記載されています。

では、正しく分圧するためには、どうすればいいでしょうか?

時定数を考慮した分圧

正しく分圧するには、分圧比に準じた容量のコンデンサを追加する必要があります。

この回路の場合、分圧比は1/2なので、同じ値のコンデンサをC2にいれる必要があります。後述の分圧比の計算から、C2には176pFを入れてみます。この値が正しいかどうかを確かめるために、LTspiceで確認してみましょう。(図7)

図図7:LTspiceでC2のコンデンサの容量が正しいか確認した波形

立ち上がりの遅れもなくなっているので、コンデンサがついていない場合と同じ波形になりました。

この回路をADALMで確認するために、100pFと39pFを2つ使用して、合成容量176pFに近い値を構成して、実装した回路が図8です。

図図8:算出した寄生容量を元にADALMで確認した波形

この時のADALMで計測した波形が図9です。若干補正が足りていませんが、図4と比べると波形が改善していることがわかります。

図図9:C2に176pFで補正を反映した回路をADALMで確認

この時の周波数特性を見てみましょう。(図10)

図図10:補正結果の周波数特性をADALMで確認

こちらも、図5と比べるとかなり改善されていることがわかります。

寄生容量の違いで波形が変わる

では、寄生容量が波形に及ぼす影響を考えてみましょう。

ここまでは、正しく補正する方法を解説しましたが、正しくない場合の波形を確認しておくことも必要です。正しい分圧比で波形を得るには、176pFの容量を入れる事は理解できたと思いますが、その容量を100pFもしくは400pFにした場合の波形の変化を確認してみましょう。

まずは、LTspiceでコンデンサの容量を3パターン用意して波形を観測してみましょう。(図11)

図図11:コンデンサの容量を変化させた結果

複数のパラメータを指定する方法【LTspice ワンポイント】

  • `.step param C list 100p 176p 400p`と指定しています。
  • ここのパラメータを変えると、いろいろ変化させることができます。
  • 変えたいパラメータは、`{}`で回路図中に指定します。この場合、C2の`{C}`です。

オーバーシュート気味の波形は、C2に400pFを指定した場合です。もしこのような波形になっている場合は、C1を大きくするか、C2を小さくするように検討しましょう。手元にあるのが、4700pFのみだったので、LTspiceの結果より大きく変化はしてしまいますが、その時のADALMによる波形です。(図12)

図図12:補正が合わずオーバーシュートになっている。

またC2に100pFを指定した場合は、立ち上がり立ち下がりが緩く、入力波形に追従できていないと考えます。その場合は、C1を小さくするか、C2を大きくするように検討しましょう。図13は、C2に100pFを入れた時のADALMによる波形です。

図図13:補正が合わず立ち上がりが遅い。

分圧比の計算

今回取り上げた回路は、周波数補償分圧器として知られています。この回路は、DCまたは低周波での抵抗分圧器として機能し、高周波では容量性リアクタンスの分圧器として機能することがわかります。

コンデンサのリアクタンスは周波数に依存しますが、抵抗は信号周波数の変化の影響を受けません。この回路の分周比は、

\(分周比\frac{V_2 }{V_S} = \frac{XC_2}{XC_1 + XC_2}\)

となります。

容量性リアクタンスXCは1/Cに比例するので、

\(\frac{V_2}{V_S} = \frac{C_1}{(C_1 + C_2)}\)

となり、抵抗の分圧式に似ています。

今回の回路のように、R1=R2の簡単なケースでは、抵抗の分圧比は1/2です。その時の周波数補償用コンデンサは、計測したC2と同じ容量のC1にすることで、同じ分周比(1/2)になります。分周比が変わったとしても、上記の計算を元に、挿入すべきコンデンサの容量が決まります。(図14)

図図14:分周比4:1にした時の回路と波形

この例では、45pFを挿入することで、波形が適正になりました。

まとめ

今回は、周波数補償を考慮した分圧回路について、その特徴と補正方法を学びました。この内容は、様々な場面で使われる「インピーダンス・マッチング」にもつながる内容です。正しい波形を正しく測ることはとても重要です。今回も基本的な回路からしっかり学んでください。

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