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バンドパスフィルタ(BPF:Band Pass Filter)は、周波数の範囲を決めて、その周波数のみを通過させるフィルタ回路です。この講座では、バンドパスフィルタの構成と範囲の決め方をLTspiceとADALMで学びましょう。
バンドパスフィルタの原理
バンドパスフィルタは、これまで学んだLPFとHPFのカットオフ周波数が2つ存在するフィルタ回路です。図1のようにフィルタ回路の原理をそのまま応用することができ、LPFとHPFの違いが理解できれば、それほど難しいことはありません。
しかし、バンドパスフィルタ回路の特徴を知るには、中心となる周波数が必要です。それを構成するのがLC共振回路です。共振回路については、こちらでより詳しく解説しています。
この講座では、図2の回路を中心にバンドパスフィルタ回路について解説します。この回路には、インダクタンスとコンデンサによるLC並列共振回路が存在しています。
3つの周波数
バンドパスフィルタは、図3のように中心周波数f0と、f0よりも小さいfL、f0よりも大きいfHの3つの周波数が関係しています。
中心周波数であるf0は、LC共振回路の共振周波数に該当します。
共振周波数の計算
共振周波数は、インダクタンス(22mH)とコンデンサ(0.047uF)の値からお互いのインピーダンスを打ち消しあう周波数です。共振周波数f0は下記の式で求められます。
図2の回路の共振周波数は、5.191KHzと算出できます。
求めた共振周波数f0における電圧をVmaxとすると、Vmaxに対して0.707倍(1/√2)のポイントが、カットオフ周波数fcの電圧Vになります。
バンドパスフィルタを構成するためのカットオフ周波数の条件は、下記の式を満たす必要があります。
HPFの計算
低い周波数側のカットオフポイントfc_Lを置くためには、HPFを構成する必要があります(図4)。
今回の回路では、図5のR-LによるHPFを用いています。
カットオフ周波数は、下記の式で示すことができます。
図5のHPFのカットオフ周波数fc_Hは、7.23KHzとなります。
LPFの計算
高い周波数側にカットオフポイントfc_Lを置くためには、LPFを構成する必要があります(図6)。
今回の回路では、図7のR-CによるLPFを用いています。
カットオフ周波数は、下記の式で示すことができます。
図6のLPFのカットオフ周波数fc_Lは、3.38KHzとなります。
バンドパスフィルタの周波数とQ
低い周波数のカットオフポイントと、高い周波数のカットオフポイントの算出方法が理解できれば、下記条件に当てはめて、満たしているかを確認することで、バンドパスフィルタを構成することができます。
図2の回路のバンド幅BWは、上記式から、
ここで求めたBW(3.85KHz)は、バンドパスフィルタ回路のバンド幅BWとなります。このバンド幅は、共振周波数f0(5.191KHz)を中心を含む周波数帯をどのくらいの帯域を含むかで表します。バンド幅については、Q値の講座でも触れていますので、参考にしてみてください。
図2のバンドパスフィルタ回路の特性は、
- 中心周波数 5.19KHz
- バンド幅 3.85KHz
- Q値 1.46
となります。
バンドパスフィルタの特徴として、中心周波数は、次の式でも求めることができます。
今回の例では、0.23KHzの誤差が算出できますが、これはQ値が比較的低い値(1.46)のためです。Q値が10以上高くなると上記計算や算術平均による結果の差は無視できる範囲に収まります。
バンドパスフィルタの回路
では、実際に、回路を構成して確かめていきましょう。
今回の回路で、LPFを構成するのは、抵抗とコンデンサです。HPFを構成するのは、抵抗とインダクタです。バンドパスフィルタは、LC共振周波数を中心としたLPFとHPFで構成されいます。
それぞれの回路をLTspiceとADALMでどんな変化があるのか、確認しみましょう。
LTspiceによるHPF回路
バンドパスフィルタを構成するHPFを見てみましょう。
図8は、バンドパスフィルタの回路からコンデンサを無くしたRL-HPF回路です。抵抗は1Kohm、インダクタは22mHを使用しています。この回路に、LTspiceのコマンドで、入力SIN波の周波数を変化させてフィルタの特性を調べてみます。
図8中の下段に回路図が書かれています。上段は周波数特性がわかるように拡大しています。波形のピークは12dBとなっています。カットオフ周波数は、-3dBである9dBのあたりで、かつ位相を示す破線が45°あたりの周波数になります。これで見ると、7.9KHzになっています。
ADALMでのHPF回路
実機でも同じ構成にして、波形を見てみましょう(図9)。
入力信号1.8Vに対して、-3dB(0.707V)の電圧まで下がったところの周波数(1.2V付近)が、カットオフ周波数です。HPFにはインダクタンスを使用していますので、位相も90°遅れているのがわかります。
この時の周波数は、Bode線図で確認してみましょう(図10)。
約7.4KHzあたりで-3dBのレベルになっています。
このように、HPFは低域のレベルが下がっており、周波数が高くなるにつれてレベルが上がっていくフィルタ回路です。ここで重要なのは、HPFの特徴がわかれば十分です。
LTspiceによるLPF回路
バンドパスフィルタを構成するLPFを見てみましょう。
図11は、バンドパスフィルタの回路からインダクタを無くしたRC-LPF回路です。抵抗は1Kohm、コンデンサは0.047uFを使用しています。この回路に、LTspiceのコマンドで、入力SIN波の周波数を変化させてフィルタの特性を調べてみます。
図11中の下段に回路図が書かれています。下段は周波数特性がわかるように拡大しています。波形のピークは11.6dBとなっています。カットオフ周波数は、-3dBである8.6dBのあたりで、かつ位相を示す破線が45°あたりの周波数になります。これで見ると、3.7KHzになっています。
ADALMでのLPF回路
実機でも同じ構成にして、波形を見てみましょう(図12)。
入力信号1.8Vに対して、-3dB(0.707V)の電圧まで下がったところの周波数(1.2V付近)が、カットオフ周波数です。コンデンサの波形なので、位相が90°進んでいることもわかります。
この時の周波数は、Bode線図で確認してみましょう(図13)。
約3.2KHzあたりで-3dBのレベルになっています。
このように、LPFは高域のレベルが下がっており、周波数が高くなるにつれてレベルが下がっていくフィルタ回路です。ここで重要なのは、LPFの特徴がわかれば十分です。
LTspiceによるバンドパスフィルタ回路
バンドパスフィルタを見てみましょう。
図14は、バンドパスフィルタの回路です。これまで解説してきたHPFとLPFを組み合わせた周波数特性を期待しています。基本となる中心の周波数をピークに、その両サイドのレベルが下がっていく「山」の形をイメージしてもらうとわかりやすと思います。
低い周波数からゲインが徐々に増えていき、中心周波数5KHzをピークに、ゲインが下がっていくのが確認できると思います。これがバンドパスフィルタです。
ADALMでのバンドパスフィルタ回路
実機でも同じ構成にして、波形を見てみましょう(図15)。オレンジ色の波形が、出力側のゲインを示しています。LTspice同様に、5KHz付近がピークになっています。
抵抗値を変えることでQ値の変化を見てみる
最後に、LTspiceを使って、抵抗値のみ変化させた波形を見てください(図16)。LC共振回路では、共振周波数は変化しませんが、-3dBになるカットオフ周波数が変わります(図中の赤線)。これは、Q値が抵抗によって変化していると考えることができます。グラフ中の線の色と抵抗値の関係を下記に示します。
- 青 500 Ohm Q:0.73
- 赤 1K Ohm Q:1.46
- 緑 2K Ohm Q:2.92
- ピンク 5K Ohm Q:7.3
並列共振回路のQ値は、下記式で算出できます。
LTspice コマンド
- 今回もパラメータを変化させるために、.stepコマンドを利用しています。
.step param R list 500 1K 2K 5K
- こうすることで、抵抗値を可変することができます。
まとめ
バンドパスフィルタは、特定の周波数を取り出すときのフィルタとして機能します。単純なLPFとHPFだけの組み合わせでもバンドパスフィルタは構成できますが、実際の回路ではもっと帯域を狭めた方が応用の幅が広がります。色々なパラメータで、低い周波数から高い周波数までフィルタ回路を構成してみてください。
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