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RCローパスフィルタが2つカスケード接続されている場合、1つの場合よりも遮断する信号レベルをより抑えることができます。イメージでは理解しやすいと思いますが、計算式では少し難しくなります。簡単に見えて、なかなか理解しがたいカスケード接続のフィルタ回路。今回は、このカスケード接続されたローパスフィルタ(LPF:Low Pass Filter)の特性変化をLTspiceとADALMで理解しましょう。
RCローパスフィルタのおさらい
RC LPFは、図1のような抵抗とコンデンサを介したLPFを形成した回路です。
LPFが持ち合わせている時定数により、カットオフ周波数が決まり、カットオフ周波数以降がフィルタとして機能し、入力された信号源を減衰する働きをします(図2)。
詳しくは、第12回を参照してください。
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フィルタ回路の理解を助ける伝達関数
フィルタ回路を構成するときに、必ず出てくるのが伝達関数です。伝達関数の詳しい内容は、割愛しますが、回路の説明の時には欠かせないツールです。伝達関数が使えるようになると、その先にあるラプラス変換にも応用することができ、デジタルフィルタを扱うようになった時にも役に立ちます。
伝達関数
伝達関数は、「入力」と「出力」と「中身(ブラックボックス)」を式の関係で表した関数です。
例えば、図4のような装置の場合、入力をVin、出力をVout、中の処理をG(s)とすると、下記の式が成立します。
フィルタ回路においても、このG(s)に相当する部分が該当します。
1段だけの回路の式
抵抗とコンデンサだけで構成された1次のローパスフィルタ回路(図1)の式を見てみましょう。
この回路の式も、G(s)に相当すると部分が、右辺の式と言えます。
カスケード接続(2段)された回路の式
図1の回路と同じ回路を2つ繋げてみた場合の回路(図3)を考えてみましょう。
その時の計算式は、抵抗とコンデンサの並列回路が追加された形で考えることができます。ただ、式の項は少し複雑になってきます。
で表すことができます。
この回路の式も、G(s)に相当すると部分が、右辺の式と言えます。
カスケード接続のフィルタ回路をLTspiceとADALMで確認
カスケード接続をすると、1段だけのフィルタでは得られない急峻な特性が得られます。加えて、段数が増えるごとに、位相も90°広くなります。これも、カスケード接続のフィルタの特徴といえます。
ここからは、先述した計算式よりも、LTspiceで視覚的に特性を理解しましょう。
使用する定数は、下記の部品を使います。
- R1、R2 : 1Kohm
- C1、C2 : 0.1uF
信号源は、Sin波で、振幅は1Vの設定です。
カスケード接続されたローパスフィルタ
今回使用する回路は、図3の回路です。抵抗とコンデンサは、上記の値を使用しています。
この回路に、100Hzから100KHzの正弦波を与えた時の減衰する様子をLTspiceのボード線図で確認できます(図4)。
グラフの見方は、左側は信号レベル(ゲイン)で、右側は位相です。
緑のグラフ線は、R1とC1の接続点で観測した波形です。破線は、位相の変化を示しています。1段だけのローパスフィルタと比べると、位相が180°まで変化することがわかります。
700Hz近辺にカットオフ周波数が設定されています。周波数が上がるに従って、右肩下がりになります。
次に、R2とC2の接点で観測してみます。青のグラフ線がゲインを表しており、青の破線が位相を表しています。
このグラフから読み取れることは、1段目よりも2段目の方が、傾斜がきつくなっています。つまり、「フィルタが急峻である」ということです。
ADALMで確認
LTspiceで得られた情報を元に、実際のパーツでどのような違いがあるのかを確認してみましょう。
図3と同じ回路構成をした回路に、ADALMをつないで周波数を変化させた様子が図5です。測定箇所は、2段目のRC LPFの抵抗とコンデンサの接点です。
LTspice同様、ADALMでもグラフの傾きこそ違いは見えますが、カスケードされたフィルタ回路の効果はあると言えます。フィルタの特性としては、1KHzあたりでだいぶ開きがあります。理想的なパーツと、実際のパーツの差がありますので、LTspiceと同じようにはいきませんが、減衰量が大きいことが伺えます。位相についても、LTspiceの様にはいきませんが、180°以内には収まっており、配線間やパーツ自身による寄生容量が影響していることが伺えます。
後段の抵抗値とコンデンサの容量を変化させてみる
次は、2番目のフィルタ回路の定数を変更してみたいと思います。時定数は同じに保ちながら、抵抗の値を10倍に。コンデンサの値を1/10にした場合、どのような変化があるのかを見てみましょう(図6)。
1KHzまでは、比較的フラットな状態ですが、全体的に数100Hz分改善されているように見えます。1段目のインピーダンスが低く、2段目のインピーダンスが高くなったためと言えそうです。
ADALMの場合は、図7のような変化となりました。時定数以降の周波数では、減衰量が大きく、位相が大きく乱れてしまいました。
2段目が1Kohmの時は、-9dBの減衰量に対し、10Kohmの時は-21dBとなっているので、実際の波形ではだいぶロスが大きいと言えそうです。LTspiceに対しては、理想的な値を設定していますので、データシートなどを参考に実際の値を入れていくと、誤差とか内部抵抗や寄生容量などの影響で、減衰量も変化していくと言えます。
見やすくするために、1KHzまでの波形を取得しています。
前段の抵抗値とコンデンサの容量を変化させてみる
今度は、1番目のフィルタ回路の定数を変更してみましょう。RCの時定数は、そのままです(図9)。1段目の位相が、1KHzあたりから上に押し上げられています。位相が進んでいると考えられるので、容量性負荷が増大したと言えます。これは、前回の寄生容量でも説明した、位相補償が効きすぎていると言えます。最終的な出力信号としては、R2とC2の接点で計測することになりますが、前段の回路で位相補償が効きすぎると、アンプを通した際、発振する原因につながります。この辺りも事前に検証できるLTspiceの有効的な活用方法です。
ADALMの場合は、図10のような変化となりました。同じ様に、500Hzあたりから、位相が進んでいく様子が観測できました。3KHzからは位相が乱れてしまいましたので、1KHzまでに絞り込んで取得した周波数特性が図11です。
時定数を同じにしていても、前段と後段のインピーダンスの差や、位相など波形による変化は現れてきます。単純に2倍にフィルタになるわけではないということがわかります。
定数を変えるコツ
抵抗とコンデンサの時定数を一定に保ちつつ、10倍の係数を使用することは、カスケードされたパッシブRCフィルタを設計する際に有効な手段になります。
まとめ
カスケード接続されたローパスフィルタは、見た目は簡単そうに見えますが、インピーダンスなどを考慮すると、思いの外複雑です。パッシブパーツで確認する際に、シミュレーションでじっくり検討することも重要です。色々なパラメータで、低い周波数から高い周波数までフィルタ回路を構成してみてください。
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