デジタル時代にマッチしたフーリエ変換とは
コンピュータ・インターネット・携帯電話・スマートフォンは日常生活から切っても切り離せない存在となりました。これらの中に入っている情報は全てデジタル信号、別の言い方をすれば離散信号です。
これまで説明してきた「フーリエ級数展開」「フーリエ変換」で確立してきた周波数分析の技術を、コンピュータでも利用したいと考えるのは自然な発想でしょう。しかし「フーリエ級数展開」「フーリエ変換」は連続信号を対象としているので、そのままではコンピュータで使うことができません。コンピュータで周波数分析を行うためには、離散信号に対応したフーリエ変換を考える必要があります。
図1:フーリエ級数(の仲間)の入出力関係対応表
前回までの記事で説明した通り、「フーリエ級数展開」は周期的な連続信号と離散スペクトルを結び付けるものでした。(図1①)「フーリエ変換」では、単発波形(非周期的信号)を扱えるように改良を行い、その結果出力は離散スペクトルから連続スペクトルに変化しました(図1②)。
では、入力信号を離散化するとどうなるでしょうか(ここでいう離散化とは時間の離散化、すなわちサンプリングを行うことです)。フーリエ変換を離散信号に対応させたものを「離散時間フーリエ変換(Discrete Time Fourier Transform : DTFT)」といいます(図1③)。ところが離散時間フーリエ変換は、出力(スペクトル関数)が連続信号になります。入力信号が離散化されても、出力信号が連続信号になってしまうため、コンピュータで処理を行うことができず、実用的にはあまり使用されません。
入力も出力も共に離散信号となるように工夫したものは「離散フーリエ変換(Discrete Fourier Transform : DFT」といいます(図1④)。図1下部の矢印が表すように、実は入力の「連続/離散」「周期的/非周期的」と出力の「周期的/非周期的」「連続/離散」は対応しています。そのため、入力と出力を共に離散信号にするためには、その代償として「出力が周期的になる」「入力を周期的にする」という2つの条件を受け入れる必要があります。
非周期信号を扱うためにフーリエ変換が産まれたのに、また周期信号の縛りが復活してしまう事になりますが、これは致し方ないのでいったん諦める必要があります。入力信号は「永遠に繰り返される」という前提で計算し、出力信号は周期的(になってしまう)ので、そこから物理的に意味のある所だけ取り出して使うようにします。現段階では意味が解らないと思いますが、また後で説明します。正しく使う分には問題になりませんので、気にせず先に進みましょう。
離散信号における「時間」と「周波数」の考え方
これから離散信号の世界に入っていくのですが、そのまえに離散信号における「時間」と「周波数」の考え方を理解しておく必要があります。
ここまで扱ってきた連続信号では、周期(時間)の単位は”[sec]” であり、これは実数値(小数点を伴う値)なので、0.1″[sec]” ・0.01″[sec]” ・0.001″[sec]” …といくらでも細かくして扱うことができました。それに対応する周波数の単位はで、これもまた実数値でした。
連続信号f(t)は、あらゆるtに対して(tが実数の範囲で)f(t)が存在します。例として、すなわち1Hzの正弦波を図2に示してみましょう。

図2:連続信号
では離散信号になるとどうなるでしょうか。離散信号は一定の間隔(サンプリング周期)でサンプリングされた飛び飛びの値を持ちます。先ほどの
そして、サンプリングされた部分(つまり上式でリストアップされた値)以外の場所には「信号が存在しません」。

図3:離散信号
離散信号の世界では最小の時間単位が
本連載における離散信号の表記方法
これから離散信号を扱うにあたり、以下の表記法を導入します(一般的に使われる表記法ではありませんので注意して下さい)。

図4:本連載で導入する離散信号の記号表現
これだけではわかりにくいので具体例を示します。

図5:サンプリングの例(1)
図5に示す三角波を考えてみましょう。三角波の周期は0.8[sec]で、サンプリング間隔は1周期を4分割、すなわち0.2[sec]になっています。これを次のように表現します。
角カッコ内のnは離散信号列の何番目かを示す添え字なので、バラバラに書くと以下のようになります。
ただし、周期Tや分割数Nが明らかで混乱の恐れがない場合は省略して
とする場合もあります。
もう一つ別の例を示します。

図6:サンプリングの例(2)
図6に示す波形は周期が1[sec]で、サンプリング間隔は1周期を10分割、すなわち0.1[sec]になっています。これを次のように表現します。
添え字nをバラバラに書くと以下のようになります。
T及びNを省略すると次のようになります。
なぜこのような表記を導入するかというと、サンプリング周期が信号1周期を整数分割できる長さになっている方が結果がきれいになって学習しやすいためです。
現実的な分析ではサンプリング周期が信号周期のぴったり整数分割になっているということはまずありえないのですが、そのような状況でどうなるか・どうすればよいかはまた後々お話しします。
次回は離散フーリエ変換の公式を読み解いていきます。
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