なぜ三角関数が必要なのか
「♪ひと夜ひと夜にひとみごろ 富士山麓にオウム鳴く サイン・コサイン何になる 俺らにゃ俺らの夢がある」というのは、高石ともやが歌う「受験生ブルース」という歌の一節です。何の役に立つのかよくわからないものの代名詞として、サイン・コサインが登場しています(その前の「ひと夜ひと夜に…」「富士山麓…」は、前回紹介した√2と√5のゴロ合わせですね)。この曲が発売されたのは1968(昭和43)年。
2002(平成14)年に、吉本の芸人さんたちが集まったユニットRe:Japanが歌う「bittersweet samba~ニッポンの夜明け前~」の中でも「サインも コサインもまた この先どうせ使わないけど」という歌詞があります。昭和も平成も、そしてきっと令和も、サイン・コサイン、すなわち三角関数は学生に嫌われ、使いどころのわからないものの代名詞とされてしまっています。
それでもなお、中学・高校の数学では三角比や三角関数が残っており、決して消える事はありません。なぜならば、三角関数は大変に便利で、使いどころがたくさんある重要な数学の道具だからです。
高校では三角関数を中学校で学んだ三角比の延長として学びますが、三角関数の便利さは、むしろ「円」との関りにあります。円を基準にして三角関数を理解することで、様々な周期波形…すなわち、「同じ形を繰り返す波形」を扱うときに大変強力な道具になるのです。また、多くの人が楽しんでいるであろうアクションゲームや、3DCGを作る時にも、ロボットの動きを設計するためにも欠かすことができない道具です。
まずは三角比を思い出す
直角三角形をひとつ用意し、3辺の長さa,b,cと1つの角度θ(シータ)を図のように決めます。この時、(三角形の大きさに関わらず)2つの辺の長さが作る比率は一定の値になります。特に「斜辺a 分の 対辺c」の比率を「sin(サイン)」、「斜辺a 分の 底辺b」の比率を「cos(コサイン)」、「底辺b 分の 対辺c」の比率を「tan(タンジェント)」と呼びます。これらを全て合わせて「三角比」といいます。
この「三角比」を拡張して、角度θを引数に入れると、sin,cos,tanに相当する値が出力されるように定義した関数が「三角関数」です。代表的な値(θ=0°,30°,45°,60°,90°)を図にまとめておきましょう。
ただし、直角三角形をつかった「三角比」の定義のままでは、θが90度を超えたときや、マイナスの角度に対する出力が定義できません。そこで、円を使って三角関数を定義し直します。
(拡張された)三角関数
円を使って定義し直した三角関数は、「拡張された三角関数」と呼ばれることもあります。これにより、θが90°を超えたり、マイナスの値であったりしても値を定義することができます。とはいえ、直角三角形を使って定義しても円を使って定義しても、θ=0~90°の範囲であれば得られる値は同じなので、定義の違いをあまり気にしすぎる必要はありません。
円を使って三角関数を定義する時は単位円(中心が原点と一致していて、半径が1の円)を使用します。図に示すように、単位円上の点P(x,y)を考え、原点とPを結んだ直線OPを引きます。x軸(横軸)の正方向とOPが成す角度をθとします。この時、直線OPは単位円の半径なので、常に長さ1である事がポイントとなって、sin,cosの値は点Pの座標x,yを使って簡単に表すことができます。tanについては、sin,cosの値から公式を使って求めることができます。
このような定義にすることで、本当に直角三角形で定義した三角比と同じ値が得られるのか、例えばθ=45°を例に確認してみると、ちゃんと一致した値がでてきます(なお、プラスの角度とは、x軸正方向を基準に反時計回りに角度をとることです。)。
このように円を使った定義にすれば、θが90°を超えても、マイナスの値であっても明確に三角関数が定義されます。
例えばθ=150°の時を考えてみましょう。180°からθ=150°を引くと30°であることを利用して、図のように計算できます。
角度がマイナスの場合、例えばθ=-60°なら次のようになります(なお、マイナスの角度とは、x軸正方向を基準に時計回りに角度をとることです。)。
ちょっと余談:他にもある三角関数
よく使用する三角関数はsin,cos,tanの3種類ですが、他にも3つ、あまり使われない(とはいえ大学数学や物理などの教科書などを見るとごくまれに登場する)三角関数が存在します。図の通り、sin,cos,tanの逆数に相当します。
またこれとは別に、双曲線関数と呼ばれる関数もあり、sinh(ハイパボリック・サイン)、cosh(ハイパボリック・コサイン)、tanh(ハイパボリック・タンジェント)などといいます。しかしこれはこの連載のずっと後の方で説明する、「(オイラーの公式を使った)三角関数の複素形式表示」と定義が《似ている》というだけで三角関数の記号が流用されているので、見た目は似ていても三角関数とはかなり扱いが異なります。(全く無関係というわけでもないのですが、あまりにも難しすぎるのでここでは説明を控えます)
逆三角関数
逆三角関数は文字通り「三角関数の逆関数」です。逆関数というのは関数の入力(引数)と出力(結果)を逆転させたものですから、逆三角関数は「直角三角形の2辺の比率を引数に与えると、それに対応する角度θが得られる関数」ということになります。
逆三角関数は、先頭に「アーク」を付けて、「アークサイン」「アークコサイン」「アークタンジェント」と呼びます。
記号の書き方は、sin,cos,tanの指数に-1をつける方法と、sin,cos,tanの前にa(アーク)を付ける方法の2種類がありますが、前者は単純な「三角関数の逆数」と混乱するためか、.後者の方の書き方をよく見ます。
三角関数ではsin,cosの出現頻度が高いですが、逆三角関数はatanをよく使います。
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