デュアルコアのArm Cortex-A9 MPcoreプロセッサとFPGAとをワンチップに統合した「アルテラSoC」のサンプルがいよいよ顧客の手に渡る段階に入ってきた。なかでも話題となっているのが、アルテラ正規販売代理店であるアルティマが開発した評価ボード「Helio」(ヘリオ)である。25,800円という破格のプライスを実現し、「一桁間違っているのではないか?」という声もあるほどだ。今回、APS編集チームは読者を代表してアルティマ本社に突撃取材を敢行。「Helio」開発者の熱い想いを聞いた。
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「アルテラSoC」でLinuxが簡単にブート。アルティマ技術陣の自信作が登場
大好評の「APS調査隊が行く」。第二回目となる今回は新横浜にあるアルティマ本社にお邪魔しました。というのも、FPGAとArm Cortex-A9 MPCoreプロセッサとを統合した「アルテラSoC」の評価ボードを25,800円という驚きのプライスで出されたということで、Twitterなどで話題に上っているからです。アルティマの皆さん、今日はよろしくお願いします。
全員:ようこそお越しくださいました。こちらこそよろしくお願いします。
さっそくですが、ずいぶん思い切った価格で「アルテラSoC」の評価ボードを製品化したそうですね。
池田:当社は長年にわたってアルテラの販売代理店を務めてきましたが、今回「アルテラSoC」を多くのエンジニアの皆さんに評価してもらいたいと考え、「Helio」(ヘリオ)という評価ボードを開発し、25,800円という低価格で発売しました。
実際のボードが、これですね。
池田:はい。このボードが「Helio」で、中央に載っているデバイスが「アルテラSoC」のエントリー品種に相当する「Cyclone V SoC」(型番:5CSXFC6C6U23)です。このボードのほかに、ボードに電源を供給するACアダプタ、PCとの接続に使うUSBケーブル、Linuxなどのブートイメージを格納するブランクのmicroSDカードが同梱されています。一緒に付けたいところですが、LCDパネルやCMOSカメラモジュールは付いてませんよ(笑)。
須山:今日は「Helio」を使ったデモシステムを用意しました。最初にLinuxのブートデモをお見せします。「Helio」にLinux 3.7のブートイメージを格納したmicroSDカードを挿入し電源を投入すると、「Cyclone V SoC」に内蔵されているArm Cortex-A9 MPCoreプロセッサ上でLinux 3.7が起動します。特殊な設定などをしなくても、「Cyclone V SoC」がArm Cortex-A9 MPCoreプロセッサ搭載マイコンとして動作することがお判りいただけるかと思います。続いて、画像処理のデモをお見せしたいと思います。魚眼カメラが出力するコンポジットビデオ信号をキャプチャして、魚眼補正処理、回転処理をLinux上のアプリケーションで実行したのち、アルファブレンディング処理してLCDに出力するというのが一連の動作です。一般にこうした画像処理をハードウェアで実装するのは技術的に簡単ではありませんが、Linux上のアプリケーションで処理していますので柔軟性が高く、しかも比較的簡単に実現することができます。なお、コンポジットビデオの入力処理やLCDパネルの駆動処理などは、「Cyclone V SoC」のFPGA部分に回路を組んで実現しています。
池田:このほかに、多軸モーター制御のデモなどをイベントなどでお見せした実績があります。
この「Helio」ボードやデモはアルティマ社内で開発したんですか?
池田:そうなんです。アルティマはさまざまな半導体ベンダーの販売代理店を務めていますが、社員のおよそ三分の一がエンジニアであり、単なる半導体商社ではありません。お客様への技術サポートはもちろん、こうした開発もこなせるだけの技術力を備えています。お客様に「技術サポートもお任せください!」と、胸を張って申し上げられるかと思っています。
アルテラ純正ボードから機能を削減。手軽な評価や開発に最適な構成
さて「Helio」についてもう少し詳しく教えてください。このボードにはどのような機能が搭載されているんでしょうか?
須山:アルテラからも「純正」の評価ボードとして「アルテラCyclone V SoC開発キット」が販売されていますが、純正ボードと比べて「Helio」は、アルテラが「HPS」(ハードウェア・プロセッサ・システム)と呼ぶArm Cortex-A9 MPCoreプロセッサとその周辺はそのままで、FPGAに関連する機能を削ぎ落としたイメージに近いかと思います。具体的にいうと、USB on-the-goやEthernetなどは使えますが、FPGA側に実装されるDDR3メモリコントローラや、PCI Expressインタフェース、SDIなどは「Helio」では使えません。どちらかというと、まずは動作を確認してみたい、あるいはLinux上でアプリケーションを開発してみたい、といったお客様には「Helio」が適当です。一方で、FPGAで回路をゴリゴリ組みたい、デバイスドライバを含むローレベルソフトウェア開発もしたい、というお客様にはアルテラの純正ボードが適当と考えています。
ボードに載っているコネクタをざっと説明してもらえますか?
須山:LCDが接続されているのが、アルテラの各種評価ボードにも搭載されている「HSMC」(ハイスピード・メザニン・コネクタ)で、画像処理などの拡張ボードをオプションで接続することができます。それから、JTAG ICE用のMictorコネクタ、アルテラのUSB接続JTAGインタフェースであるUSB Blasterコネクタ、Gbit Ethernetコネクタ、microSDカードソケット、USB on-the-goコネクタなどが搭載されています。また、中央にある白いのが「Helio」の電源系をモニターする専用のコネクタです。
電源がモニターできるというのは、どういう機能なのでしょう?
田代:そこは電源設計を担当した私から説明します。FPGAには一般に複数系統の電源レールを供給する必要があり、この「Helio」でも「Cyclone V SoC」に、1.1V、1.5V、2.5V、3.3Vという4系統の電源をPOL(ポイント・オブ・ロード)レギュレータから与えています。実は「Helio」にはそれらレギュレータを管理する電源マネージャICとしてリニアテクノロジーの「LTC2978」を搭載しており、ボード中央のPMBusコネクタに同社の「USB-to-PMBusコントローラ」(型番:DC1613A)というドングルを接続して、同じくリニアテクノロジーが提供している「LTpowerPlay」(無償)というパソコン側のモニタリングソフトで見ると、各系統の電圧値および電流値をリアルタイムに把握することができるんです。Linux上のアプリケーションを変更したり、FPGAロジックを書き換えたときに、消費電力がどのぐらい変化するかがすぐに判ります。
消費電力はどんな組み込みシステムでも常に課題のひとつに挙げられますから、こうした機能はエンジニアからすると助かりますね。
アルテラ純正ボードとBSP互換。eT-Kernelなど他OSも動作
さて、続いてLinuxを含むOSについて伺いたいのですが、「Helio」用のLinuxはどこから入手すればいいのですか?
須山:「Helio」およびアルテラ純正ボード用のLinuxは、2013年7月時点で、カーネル3.7とカーネル3.8が、コミュニティサイト「RocketBoards.org」で公開されています(※1)。「Getting Started」というドキュメントに従ってmicroSDカード上にブートイメージを作っていただければすぐにブートさせることができます。また、最新版ではなくてある程度枯れたバージョンを使いたいというユーザー向けに、ロングタームサポートとして、カーネル3.4が同サイトで提供されています。
Linux以外のOSを使いたいお客さんもいますよね。
池田:「Helio」はアルテラ純正ボード用のBSP(ボード・サポート・パッケージ)がそのまま動作する仕組みになっていますので、対応可能なOSの種類は今後増えていくと見込んでいます。現時点でイーソルの「eT-Kernel」の動作は確認済みですが、そのほかのOSベンダーさんともお話をしているところなので、いずれご紹介できると思います。
そのほかに必要なものというと……開発環境が要りますね。
池田:単にLinuxをブートして動作を確認してみたい、というレベルでは必要ありませんが、「アルテラSoC」の機能を活用したり製品を開発しようとするのであれば、やはりいくつかの環境を用意していただかないといけません。まず、FPGA部分の開発については「アルテラQuartus II ソフトウェア」が必要ですが、ライセンスフリーのウェブ・エディションが使えますのでご安心ください。一方でArm Cortex-A9 MPCoreプロセッサ周りの開発には、統合開発環境である「アルテラSoCエンベデッド・デザイン・スイート(EDS)」を使っていただくことになります。これにはアルテラがArmと共同で開発した「Development Studio 5(DS-5)Altera Edition」も含まれていて、DS-5と同じ使い勝手で、FPGAのレジスタにアクセスしたりハードとソフトの間でクロストリガーを掛けられるなどの優れた機能が特徴です。「アルテラSoC EDS」は30日間の無償評価ライセンスを提供可能です。
須山:JTAG ICEについては、横河ディジタルコンピュータの「adviceLUNA」、ローターバッハの「TRACE32」、京都マイクロコンピュータの「PARTNER-Jet」などの動作を検証済みです。
池田:「アルテラSoC」をご紹介したお客様からは、開発環境はどうすればいいのか、どうやってソフトウェアとハードウェアとを開発すればいいのか、というご質問をよく頂戴します。基本的に当社にご相談いただければ詳しいお話をさせていただきますので、なんでも訊いてください。
ペリフェラルのひとつしてFPGAを統合。幅広い可能性に期待が集まる
「アルテラSoC」の特徴については、これまで本誌で紹介してきましたが、あらためて教えてください。
池田:「アルテラSoC」は、ハードウェアをフレキシブルに書き換えられるFPGAと、Arm Cortex-A9 MPCoreプロセッサを中心に構成された「HPS」とをワンチップに統合したSoCデバイスです。FPGAにArmプロセッサが載ったというよりも、Arm SoCのペリフェラルのひとつとしてFPGAがくっついている、というイメージが近いかと思います。メリットはなんといってもお客様専用のカスタムSoCを手軽に作れることにあると思っています。EthernetやUARTがもう1ポート欲しい、画像処理のアクセラレータを入れたい、といったときに、それらをFPGAに実装できるわけです。市販のマイコンでは機能が足りない、他社との差別化のために独自のエンジンを積む必要がある、そういったお客様にこそメリットがあると思います。
なるほど、FPGAとArmがくっついたというより、ArmのペリフェラルのひとつとしてFPGAがある、という喩えはすごく判りやすいですね。
須山:それと、これまで外部のFPGAで対応してきたロジックをワンチップ化できますから、チップ間のインタコネクトを簡単かつ高速に実装できますし、I/O機能をPCI Expressなどのバスを介さずにメモリアクセスの感覚で実装することもできます。
デバイス間の高速インタコネクトが中に入れば基板設計も楽になりますね。ところでアルティマさんは販売代理店なので、すでに顧客に提案・紹介していると思うのですが、反応はいかがですか?
池田:「アルテラSoC」関連のワークショップやセミナーは早い時期に定員に達するなど多くの反響をいただいています。また、これまでFPGAは、システムのスレーブ的な役割で使われることが多かったのが、Arm Cortex-A9 MPCoreプロセッサが搭載されたことでホストプロセッサとしても活用できるとして、応用範囲が広くなりそうとのご評価もいただいています。
一人でも多くのユーザーに届けたい。価格を驚きの25,800円に設定
さて、話は戻りますが、「Helio」は25,800円とかなり思い切った価格設定にしましたね。
池田:当社が扱っている「アルテラSoC」を、一人でも多くのお客に触れてもらいたいという想いで頑張りました。ただ正直なところ、「Helio」だけではビジネスにはならないので(笑)、最終的には「アルテラSoC」の正式採用につなげていきたいなと。
「Helio」を会社で買おうとすると稟議書だの予算確保だの面倒なので、自分のポケットマネーで買っちゃえ、というエンジニアの方もいそうですね。
池田:実際にそういうお話もあります。今のところ個人のお客様に販売する仕組みがないのですが、いずれ対応していきたいと考えています。
もうすでに手に入るんですか?
池田:出荷は2013年8月からの予定です。実はかなりのバックオーダーをいただいていまして、速やかにデリバリーできるように製造を頑張っているところです。
いろいろとありがとうございました。ということでAPS調査隊は「Helio」を紹介するというミッションはこれにて終了ですが、最後に、読者に向けて一言ずつお願いします。
田代:「アルテラSoC」のような最先端のデバイスは、複数の電源レールを必要とする一方で、それぞれに高い電圧精度が求められます。最近は電源設計の専任担当者がいらっしゃらないお客様も多いと思いますので、電源について何かお手伝いできることがあれば、なんでも申し付けていただきたいと思っています。
須山:私は「Helio」の開発に初期の頃から参加して苦労しながら作ったボードなので、いろいろな方に触ってもらいたいと思います。Linux環境が簡単に使えるように仕上げていますので、ぜひ遊んでみてください。
池田:先ほども申し上げたように、頑張って25,800円という数字を出したので、多くのお客様に一度でいいから触ってもらいたいと、もう本当にそれだけです!(笑)
アルティマの皆さんの熱意が伝わる取材となりました。今日はありがとうございました。
全員:こちらこそありがとうございました。また突撃取材にぜひいらしてください。
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