イーフォース株式会社(以下、イーフォース)は、μITRON OSである「μC3(マイクロ・シー・キューブ)/Compact」や「μC3/Standard」、ネットワーク・プロトコル・スタックの「μNet3/Compact」や「μNet3/Standard」を開発・提供している。いずれもArmアーキテクチャに対応したものだ。ここでは、イーフォースや製品の魅力などを聞いた。
目次
なるべく省メモリで実装できるOSが望まれている。
多くの組み込みシステムでOSが搭載されるようになってきたが、その一方でOSが重い、メモリの増設が必要、コンフィギュレーションに手間がかかるといった声があるのも事実だ。シングル・チップ・マイコンの内蔵メモリ容量は年々増加してきているが、その反面、メモリ容量はコストに跳ね返ってしまう。なるべく省メモリで実装できるOSが望まれているのも事実である。
イーフォースのμC3/Compactは、そういった「なるべく小さなメモリにOSを収納したい」というニーズに応えるOSである。「μC3/Compactは、一般的なμITRONより小さい自動車制御プロファイルに基づいており、最低2.4kバイトから最大7kバイトのコードサイズしかありません」と語るのは代表取締役の与曽井氏。μC3/Compactの主なターゲットは、8~16ビットのマイコンをOSレスで使っていたユーザである。ちなみに、「μC3」は、コンパクト、コネクティビティ、ケーパビリティの3つの「C」を持つ製品ということで名付けたという。「小さく、繋がる、そして将来性(能力)がある」といった意味だろうか。
μITRON製品は多くのベンダから提供されているなか、イーフォースのμC3/Compactとの違いはどこなのだろうか。そのひとつとして、コンフィギュレータ(μC3/Configurator)を搭載していることがあげられる。「コンフィギュレータのGUIから、カーネル、マイコンのペリフェラル、TCP/IPの初期設定を視覚的に行うことができ、開発時間の大幅な短縮が可能です」と営業技術担当の浦邉氏は言う。もちろん、ここで設定したソースコードに手を入れることもできる。
μC3/CompactはいままでOSを使ったことのない製品もターゲットとしていることから、「コンフィギュレータは、きわめて歓迎されています。コンフィギュレーションに慣れているユーザについては、ドキュメント代わりにもなります」(浦邉氏)とのことだ。さらに、μITRON 4.0のスタンダードプロファイルに準拠したμC3/Standardでも、2011年暮れを目処にコンフィギュレータを用意していく予定である。
μC3/Compact+μNet3/Compactの無償評価版を用意。
μC3/Compactは、ArmのCortex-M3、Cortex-M4、Arm7-TDMIに対応している。「Cortex-M3への対応は4年前からで、国内では初めてのOSベンダだと思っています。先行できたこともあり、Cortex-M3に搭載されているリアルタイムOSのなかでは、7~8割のシェアを占めているという実感はあります」(与曽井氏)。
μC3/Compactは、医療機器(補助人工心臓装置のロガー)、計測器(音響計測、地震/火山計測)、コンシューマ(デジタル・カメラ、ゲーム・コントローラ、プロジェクタ、電子ピアノ)、産業機器(プリンタ、PLC、データロガー)、設備機器(監視装置、音響装置、センサー・ネットワーク、ビル管理、アミューズメント機器)といった多様な組み込みシステムへの採用実績がある。
μC3/Compact+μNet3/Compactの評価ができる無償評価版が多数用意されている。無償評価版は、イーフォースのホームページ(http://www.eforce.co.jp)からダウンロードできる。
評価ボードとして、イーフォース製、IARシステムズ製、STマイクロエレクトロニクス製、アットマークテクノ製などがある。最近では、雑誌にもボードが付録で提供されることがあるので、それらを活用できる。
対応コンパイラは、IARシステムズのEWArm、ArmのRealView MDK、TIのCode Composer Studioなどがある。さらにJTAGデバッガとして、IARシステムズのJ-LINK+C-SPY、コンピューテックスのPALMiCE3+CSIDE、ソフィアシステムズのEJSCATT+WATCHPOINTなどがある。さらに、グレープシステムのGRAPEWARE、データテクノロジーのCenteからμC3/Compact対応ミドルウエアが提供されている。
コンパクトなOSにマッチする軽量のTCP/IPスタック。
μNet3/Compactは、軽量のプロトコル・スタックである。「多くのペリフェラルが内蔵されたワンチップ・マイコンを利用する場合、OSだけでなく、プロトコルスタックなどのミドルウェアもコンパクトでないと、内蔵メモリにソフトウェアが収まりません」(与曽井氏)。
一般的なミドルウエアは、メモリ制約の緩いシステムに向けたものが多く、マイコンの内蔵メモリだけで動作させることは困難なことが多い。ネットワークやUSB、ファイルシステム、無線LAN、セキュリティなどのミドルウエアを搭載するとなると、マイコン外付けの専用コントローラや大容量メモリが必要となる。これでは、システム・コストが上昇してしまう。
μNet3/Compactは、μC3/Compactと組み合わせることで、シングル・チップ・マイコンでも動作させられるTCP/IPスタックである。コードサイズがわずか12kバイトのTCP/IPスタックながら、TCP、UDP、IP、ICMP、IGMP、ARP、HTTP、FTP、DHCP、DNSをサポートし、本格的な通信アプリケーションを構築できる。オプションで、PPPやIPv6もサポートしており、今後、Wi-Fi やZigBee などの無線通信、SSLなどのソフトウェア・ソリューションの提供も予定している。
「速度も速く、STM32F107(Arm Cortex-M3 72Mhz)の場合、UDP Txで67Mbps、UDP Rxで63Mbps、TCP Txで51Mbps、TCP Rxで50Mbpsという数値となっています」(浦邉氏)という。さらに、μC3/Configuratorで簡単にコンフィギュレーションができるのも魅力である。μC3/Standardに向けたプロトコル・スタックであるμNet3/Standardもある。
いまμITRONの良さを再認識するとき。
Armコアを内蔵したマイコンは、FPGA(Field Programmable Gate Array)、EthernetのMAC PHY、暗号エンジンを搭載したり、デュアルコア化するなど多様化している。これによる各半導体ベンダの競争はユーザに大きなメリットをもたらしているのも事実だ。「競争によってマイコンの単価が下がったり、豊富なバリエーションのなかから最適なマイコンを選択できるなど、ユーザにとっては大きなメリットがあります」(与曽井氏)。
その一方、どのマイコンを選択するべきか迷うこともある。「以前は半導体ベンダにいた経験から、お客様の大まかな要望をお聞きしたうえで、マイコンの選択肢を狭められるようなアドバイスを行うこともあります」(浦邉氏)。
最後に浦邉氏は、「μC3/Compactは、コンフィギュレータがポイントであり、一度その良さを味わってください。いま、μITRONからLinuxへという動きがあるなか、重く、起動が遅いなどの課題も出てきています。もう一度、μITRONの良さを見直してください」と、μC3/Compactのメリットを強調した。
さらに、与曽井氏も「評価版を続々と配信していきますので、とりあえず試してみてください。われわれは小さいというメリットを活かし、お客様のご要望に対してフットワーク軽く応じています。お気軽に相談してください」と結んだ。
イーフォースのソリューションは、今後も低コストかつ軽量な組み込みシステムの強い味方になっていくだろう。
こちらも是非
“もっと見る” インタビュー
パナソニックが電動アシスト自転車にSTM32を採用。タイヤの空気圧低下をエッジAIがお知らせ
国内の電動アシスト自転車市場で圧倒的なシェアを誇るパナソニック サイクルテック。同社が新たに開発したのが、タイヤの空気圧低下をAIで推定する「空気入れタイミングお知らせ機能」である。パンクの原因にもなる空気圧低下を乗り手に知らせて、安全性と快適性を高めるのが狙いだ。アシスト用モーターの制御とAIモデルの実行にはSTのSTM32マイコンを採用した。開発の経緯や仕組みについて話を聞いた。
顔認証端末「Noqtoa」の高性能を支えるi.MX 8M Plusプロセッサ~内蔵NPUが0.2秒のレスポンスを実現~
NXP Semiconductorsのi.MX 8M Plusアプリケーション・プロセッサとサイバーリンクのAI顔認証エンジンFaceMeで構成した宮川製作所の顔認証端末「Noqtoa(ノクトア)」。i.MX 8M Plusの特徴のひとつであるNPU(ニューラル・プロセッシング・ユニット)を活用して、人物の顔の特徴量抽出を高速化し、1万人の登録に対してわずか0.2秒という顔認証レスポンスを実現した。宮川製作所で開発を担当したお二人を中心に話を聞いた。
ウインドリバーが始めた、Yocto Linuxにも対応する組み込みLinux開発・運用支援サービスとは?
リアルタイムOSの「VxWorks」やYocto Projectベースの商用組み込みLinuxである「Wind River Linux」を提供し、組み込みOS市場をリードするウインドリバー。同社が新たに注力しているのが組み込みLinuxプラットフォームソリューションの開発と運用の負担を軽減するLinux開発・運用支援サービスの「Wind River Studio Linux Services」だ。