年間1億個近いASICを世界に出荷する大手ファブレスASICプロバイダであるファラデー・テクノロジー社(以下、ファラデー)は、ASICなどのカスタム・チップのプロセッサコアとしてArmアーキテクチャーコアを採用している。Arm v4およびArm v5TE インストラクション・セットのライセンシであり、数多くの製品への搭載実績がある。ここでは、ファラデーの魅力やFaraday Armプロセッサ(以下、FA)採用の理由などについて聞いた。
目次
台湾に本社を持つ大手ファブレスASICプロバイダ。
ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やSoC(System-on-a-Chip)といったカスタム・チップは、さまざまな処理をハードウェアで行うため、システムの高性能化や低消費電力化に大きく貢献するデバイスである。
ファラデーは、台湾に本社を持つ大手ファブレスASICプロバイダだ。「1993年に大手半導体製造メーカーであるUMC社のIP(Intellectual Property)事業部の中心人物であったH.P.リン(現、ファラデー社長)が、独立してファラデーを創立。現在、UMC社からの出資比率は15%であり、独立系のASICプロバイダとなっています」とは、営業部長 加藤氏。独立系とはいえ、UMC社との関係は強固であり、UMC社で用いるIPを供給しているなど、UMC社から見ても重要なパートナーとなっている。特にUSB1.0とUSB2.0についてのIPはワールドワイドで高いシェアを持ち、USB3.0トランシーバ/PHYのIPも提供している。
IPのカスタマイズにも応じている。例えば、DAC(Digital to Analog Converter)やADC(Analog to Digital Converter)、ボルテージ・ディテクターなどのアナログ系IPでの経験も豊富にあるという。「このようにフレキシブルに対応できるのが、ファラデーをお使いいただくメリットです」(加藤氏)。IPのラインアップも豊富であり、IPベンダとしてのワールドワイドでのランキングも高い。ASICベンダとIPベンダの両方で高いランキングを獲得しているのは珍しい。「ファラデーのIPは、約90%が自社開発であり、お客様からも非常に便利だと言われています。サード・パーティ製のIPを採用する際、調査だけでも時間と手間が掛かってしまいます」(加藤氏)。
ファラデー・アームという略称のCPUコアを開発。
ファラデーは、CPUコアとしてArmコアを採用している。採用の理由として技術部 FAE副部長の樋口 氏は、サポート面と変更が自由な点を挙げる。変更が自由な点は、ダイ・サイズに直結する。「Armとのライセンス上、パイプラインの段数を変更するなど、独自に行うことができ、ダイ・サイズの調整も可能です」(樋口氏)。
同社は、Armコアと命令セットやアーキテクチャ互換の独自CPUを開発できるライセンスである「アーキテクチャ・ライセンス」を取得している。「アーキテクチャ・ライセンスを取得しているのは、世界でも6社しかなく、ファブレスASICプロバイダではファラデーのみです(2011年3月現在)」(加藤氏)。このライセンスにより、「ファラデー・アーム」を略した「FAxxx」という型番のCPUコアを開発している。
同社がライセンスしているのは、Arm v4およびArm v5TEインストラクション・セットであり、Arm v7という最新のアーキテクチャではない。「そのアプリケーション用途に必用な性能を満足するのであれば、Arm v4やArm v5 TEインストラクション・セットでも十分です。優れた技術でありコスト的にもメリットがあります」(樋口氏)という。
ファラデーが提供しているCPUコアは、動作周波数が70MHzから1.2GHzと幅広く、さまざまなニーズに対応している。対応アプリケーションも幅広く、台湾本社では、さまざまな分野にわたるASICを開発しているという。
国内では、プリンタ、ディスプレイ、監視カメラ、SSD(Solid State Drive)、デジタル・スチル・カメラ、WiMAXのベースバンド・チップ、カーナビゲーション・システムなど、多様なアプリケーションに向けたASICを手がけている。Arm以外にもライセンスしているコア・ベンダはあるが、Armコアのように自由度は高くはないとのことだ。
ほとんどのIPが自社製でありイニシャル・コストを低減。
ASICを採用する際に気になるのが、イニシャル・コストと期間であろう。「さまざまなIPをひとつのチップに盛り込もうとすると、直ぐにNRE(No Recurring Engineering)のコストが増大してしまいます」(加藤氏)。そこでイニシャル・コストが不要なFPGA(Field-Programmable Gate Array)と比較することが多いのも事実だ。加藤氏は、「われわれのIPはほとんどが自社製ですので、コスト面においても非常に満足していただいています。FPGAとの損益分岐点は、製品にもよりますが、月産2,000個~3,000個程度でしょう」という。
開発期間も短く、平均で1年程度である。これには、同社内で活用している「SoCompiler」が大きく貢献している。開発体制として、ひとつのプロジェクトに対して担当者としての「プロジェクト・マネージャ」を割り当て、その人が全体を見る体制としている。「プロジェクト・マネージャは、いわばコーディネイターであり、ASICに特化したチームとコンサルティングを担うチームなどを掌握しています」(加藤氏)。
OSやツールなども、ワン・ストップですべて完結。
OSやツールなどもファラデーを窓口として調達できる。OSは、Android、Linux、Windows CE、μITRON、eCOSなどだ。すでにLinuxは、ペリフェラルも含めて用意できており、他のOSもデモ・レベルで用意済みである。ツールはファラデーがArm系ツールの代理店をしており、他社のツールも入手できる。
対応しているプロセスは、55/65nm、90nm、0.13μm、0.18μm、0.22/0.25μm、0.35μm、0.5μmのセルベースである。「最も多いのが90nmや0.13μmであり、最近でも0.18μmでの案件が成立してます」(加藤氏)。また、製造については100%UMC社に委託している。ファラデーでは、直販と特約代理店経由2つのルートでセールス活動を行っている。「特約代理店はわれわれと同じツールを用いることでASIC開発ができる技術者を配置してもらっています。それによるテクニカル・サポートも万全です」(樋口氏)。
半導体開発・製造は垂直統合型が良いという意見もあるが、ファラデーとUMC社は、台湾の新竹市新竹科学工業園区という近距離に位置し、非常に良い関係を保っている。「垂直統合型とはいえ開発拠点と生産拠点が離れているメーカーが多い中、ファラデーは狭い範囲でハブを持ち、さらにオンラインでデータを共有しています」(加藤氏)。
ファラデーを窓口にすることで、アセンブリ・ハウスやテスト・ハウスも含めてワン・ストップですべて完結できることになる。ファラデーは、Armコアを搭載したSoC開発にとって強力なパートナーであると言えるだろう。
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