組み込みマイコン用のコンパイラベンダーとして世界的に定評のあるIARシステムズ。同社が最近力を入れているのがArmソリューションだ。顧客の「手間」、「時間」、「コスト」といった負担を軽減する「アプリケーション開発プラットフォーム」を独自に提供するとともに、世界的な実績や経験を踏まえて顧客の製品設計を支援する。
組み込み用コンパイラに長年の実績。Armソリューションでも絶大な支持。
まずはじめに、IARシステムズの概要を教えてください。
松田:IARシステムズは1983年にスウェーデンで設立されたソフトウェア会社で、組み込みマイコン専用のコンパイラを世界で初めて開発した実績を誇ります。現在はArmアーキテクチャに代表される組み込みシステム向けのソフトウェアツールを全世界に向けて提供しています。日本法人の設立は2001年で、来年2011年に10周年を迎える予定です。
現在はどのようなソリューションを提供しているのですか?
松田:当社のArmソリューションのひとつが「アプリケーション開発プラットフォーム」です。C/C++コンパイラを含む当社の統合開発環境「IAR Embedded Workbench」(評価版)を中核に、「Armデバイス評価ボード」、リアルタイムOSであるイー・フォース株式会社の「μC3」(評価版)、イー・フォースや株式会社グレープシステムが提供する各種ミドルウェア(評価版)、当社のインサーキットエミュレータ「J-Link」、そして「ボードサポートパッケージ」をパッケージングしたもので、導入後すぐにデバイス評価とアプリケーション試作が行えるようになっています。現在、「TCP/IPアプリケーション開発プラットフォーム」、「LCDアプリケーション開発プラットフォーム」、「USBアプリケーション開発プラットフォーム」の3カテゴリーを提供しているほか、「サーボモータアプリケーション開発プラットフォーム」も2010年中に提供予定です。
Armアーキテクチャの取り扱いは長いのですか?
松田:単体のコンパイラとしては古くからArmアーキテクチャに対応してきた実績があります。また、3年ほど前からは、コンパイラ単体だけではなく、先ほど述べたソリューションの形態での提供を開始しています。なお、ある市場調査によると、Cortex-M3プロセッサの開発ツールとして、国内でおよそ80%のお客様が、「IAR Embedded Workbench」やインサーキットエミュレータである「J-Link」を利用されているという結果が出ています*1。ですから、このような歴史のなかで、私どものツールが業界標準のひとつになっていると言っても差し支えないと考えています。
シェア80%というのはすごい実績ですね。多くの開発者に支持されている最も大きな要因はどこにあるとお考えですか?
松田:ひとつは、アプリケーション開発に必要な開発環境一式をソリューションとしてトータルに、しかも安価に提供している点にあると考えています。Armアーキテクチャはグローバルスタンダードになっていますので、選択肢の多様さがメリットの一つになっています。しかし一方でユーザは、10社以上の半導体ベンダが提供する膨大なマイコン製品をはじめ、コンパイラも含めた開発ツール、用途別のOS、ミドルウェア等を調査し、選択しなければなりません。さまざまな製品のなかから自社の製品に適した組み合わせを見つけるのは、その動作確認も含めて、気の遠くなるような時間が必要です。お客様が本当に時間を掛けたいのは、そのような下準備ではなく、製品開発そのもののはずです。そこで当社では、「IAR Embedded Workbench」のほかに、OS、ミドルウェアを組み合わせて、すぐに動作可能な状態で、しかも安価にお客様へご提供しています。お客様からすると、「手間」、「時間」、「コスト」のすべての負担を軽減できることになり、このような点を評価していただいているのではないかと考えています。実際に、開発プラットフォームや採用事例をご紹介している弊社のArmソリューションサイトでは最近アクセス数が大幅に増加しており、注目度の高さを実感しています。
開発パートナーとして顧客を支援。設計負担を軽減する工夫を随所に。
開発プラットフォームの中心的な存在である「IAR Embedded Workbench」は御社のスウェーデン本社で開発されたものと思いますが、日本語化の状況を教えてください。
松田:IARシステムズの日本法人では積極的な日本語化を進めています。「IAR Embedded Workbench」にはさまざまなマニュアルや付録的なドキュメントが提供されていますが、主要なマニュアル、操作画面、ヘルプメニューをすでに日本語化していますし、もちろんテクニカルサポートも日本人スタッフが日本語で直接対応しています。また、開発プラットフォームに統合しているOSやミドルウェアの多くは国内のサードパーティ製であり、この点についてもご心配は不要です。Armアーキテクチャを初めて採用されたお客様や、日本製の開発ツールから当社製ツールに乗り換えたお客様からも、IARなら安心して使えるねという声をいただいています。実際のところ、Cortex-M3クラス向けのコンパイラベンダーで、日本に法人を置き、しかもメーカーの日本人スタッフが直接技術サポートを行っているという例はあまり聞いたことがありません。
話は変わりますが、Armアーキテクチャの採用にあたって開発環境の初期コストに不安を抱いている開発者も多いようです。IARソリューションのコストについて教えてください。
松田:IARではお客様のコスト負担をできるだけ抑えるように努めています。先ほど説明した各アプリケーション開発プラットフォームはおよそ5万円という手ごろな価格設定をしていて、Armアーキテクチャのマイコン評価段階では基本的にこれで十分です。また、先ほども説明したように、RTOSやミドルウェアなどの組み合わせ動作を検証済みですので、お客様ご自身で単体製品を探したり組み合わせを確認する必要がありません。時間や手間の節約という意味でも、コストの抑制が図れるかと思います。次のステップとして、製品開発に向けてソフトウェアツールのライセンスをご購入いただくことになりますが、たとえばCortex-M3プロセッサ専用のライセンスは298,000円とこれも手頃な価格に設定しています。また、IARがご提案しているソフトウェアツールはロイヤリティフリーですので、量産時のコストダウンにも貢献します。このほかにもいくつかのライセンス形態を用意していますので、ご相談いただければと思います。
Armソリューションに関して、今後の計画などを可能な範囲でお聞かせください。
松田:マイコンのリアルタイム消費電力と実行中のプログラム箇所とを対応付けして視覚化する「Power Debug」という機能を、「IAR Embedded Workbench」の拡張として、2010年秋のリリースを目標に開発しています。組み込みシステムの徹底したローパワー化を図りたいというお客様も多く、2010年5月に開催されたESEC(組み込みシステム開発展)でデモを行ったのですがとても好評でした。これからも、単なるコンパイラあるいはデバッガではなく、一歩踏み込んだソリューションの実現に努めていきたいと考えています。
一通りお話を伺った感じでは、単なる「ツールベンダ」というよりも、Armアーキテクチャに関する「開発パートナー」的な存在に近いような印象を受けました。
松田:そのように感じていただければ嬉しく思います。実際に開発者の皆様から、Armアーキテクチャのマイコンを使って「こんなことをしたい」あるいは「こんな機能を実現したい」といった検討初期段階のご相談が多く寄せられます。そのようなお客様に対して、ベンダー・ニュートラルな立場から、製品ニーズに最適なマイコン品種をご紹介することも少なくありません。特定のベンダーに偏ることなく経験とノウハウに基づいたアドバイスをさせていただける点などは、まさしく開発パートナーと言えると思います。ですから、「まずはIARに相談してみよう」を、お客様にとってのスタートラインとして考えていただければ幸いです。
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