リネオソリューションズ(以下、リネオ)は、長らく組み込みLinuxに取り組んできており、数多くのソリューションを提供している。主な製品として、Warp!!、uLinux、Vzet、SmartU2など幅広い。サービスとして、プロフェッショナルサービス、リネオテストラボ、レスキューサービス、コンサルティングなどがある。ここでは、リネオの各種ソリューションへの取り組みについて聞いた。
目次
Linux関連の多くの製品やサービスを提供
リネオの創業は、1984年のユナイテッドシステムエンジニア(USE)に逆のぼる。「当時は、ハードウェアとソフトウェアの受託開発を行っていました。開発にはUNIXマシンを活用するなど、UNIXやC言語に関しては豊富な経験があります」(小林氏)。
1990年代の後半に、「これからはLinuxだ」ということでLinuxを中心とするようになり、さらに組み込みLinuxへとシフトしていった。その後、USE全株式を米Lineo, Inc.に売却してLineoの100%子会社となり、Lineo Japan, Inc.として営業活動を行っていた。2003年にLineo, Inc.が買収されたのを機に、日本法人は株式を買い取ってリネオソリューションズとし、現在に至っているという。
「独立したことで製品が無くなってしまい、uLinuxなどの製品をゼロから開発しました」(小林氏)。製品はゼロからの開発になったが、日本のお客様へのサポートは引き継いだという。「たとえブランドが変わっても、同じエンジニアが日本にいる、ということがお客様にとっての安心感につながったと思います」(三宅氏)。
このようにLinuxに対して豊富な経験を持つリネオには、Linuxに関連した多くの製品がラインアップされている。Linuxの高速起動テクノロジーとなる「Warp!!」、Linux/Androidのプロセスを見える化する「Vzet」、各種機器に幅広く利用できるようにカスタマイズし、組み込みに特化した「Lineo uLinux」、組み込みLinux開発環境の「Lineo uLinux ELITE」、組み込みシステムの自動更新のための「SmartU2 Agent」などである。
さらにサービスとして、プロフェッショナルサービス、各種サポート、レスキューサービス、コンサルティング、Linuxカーネルの総合メンテナンスなど、Linuxに関するさまざまなメニューを用意している。
十数秒必要だったものがわずか1~2秒で起動
Warp!!は、フラッシュメモリなどの記憶装置に保存しておいたスナップショット領域を使用して高速起動を実現するものだ。通常の起動は、多くのステップを必要とする。それに対して、Warp!!は、アプリケーションを起動した状態でのシステムメモリに加え、レジスタの内容などのハードウェア状態のスナップショットイメージを保存しておく。そして、電源オンのときに保存したスナップショットイメージからシステムメモリを一挙に復元することで高速起動を実現する。システムにもよるが、起動に十数秒必要だったものが、わずか1~2秒で起動できるようになる。
Warp!!の開発はお客様からのニーズに応えたものだ。「従来は冗長な部分を削ったりしていましたが、もっとドラスティックに起動時間を短くできないかということで開発しました」(小木曽氏)。「従来のやり方では、ある一定時間までの削減は効率良く行えますが、その先まで短縮しようとすると、労力が割に合わなくなってしまいます」(三宅氏)。Warp!!は、基本的にはすべてのLinuxベースのOSに対応している。「技術的にはLinux以外のOSでも対応できるのですが、我々がLinuxのスペシャリスト集団なのでそうしています。Androidは下回りがLinuxなので対応可能です」(小木曽氏)。
完成後でも柔軟な引数設定が可能
Warp!!は2008年にリリースし、今年でver.5まで順調にバージョンアップしてきた。採用実績も増えており、2014年12月現在で63プロジェクトを数える(海外7件を含む)。「最近増えている車載関連や産業系に加え、複合機やプリンタなどのOA機器、POSレジ、医療機器、制御機器、家電など、組み込みLinux搭載の多用なシステムで採用いただいています。Linuxが搭載される機器ならどのようなものでも対応できます」(山田氏)。「海外の事例ですが、Hertzのレンタカーに搭載されているカーナビゲーションシステムへも採用されています」(三宅氏)。「Warp!!は、Arm以外の組み込み向けプロセッサも幅広くサポートしており、いろいろなシステムに適応できるようになっています」(小林氏)。
さらに、スナップショットの保存についても多用なモードを用意したり、圧縮率を可変することができるなど、システムに応じた柔軟な設定が可能となっている。「組み込みシステムは、いったん作り込んでしまうとそのまま使うことが多いのですが、Warp!!は完成後でも引数を変更することで設定を柔軟に変更することができます」(小木曽氏)。
スイッチオフ直前までのイメージで高速起動
海外へは2010年から展開している。「台湾や中国では、SoCベンダーやセットメーカーを中心にサポートしています。最近では欧米も増えてきています。たとえば、バッテリ消費がシビアな小さなシステムへの搭載事例があります。従来1日しかバッテリが持たなかったものが、Warp!!を搭載し、基本的な待機電力を激減させることで、1週間も持つようになっています」(三宅氏)。
最新版では、Android Modeを加えた。「Androidに特化したモードで、エンドユーザーのイメージを保持することで、スイッチオフ直前のイメージで高速起動ができます」(三宅氏)。「今後もより多くのお客様に採用いただきたいと思っています。そのためには、マルチコアやストレージの高速化への対応がポイントとなります。最新のver.5ではマルチコアへ対応しました。SoCやコアの特長を上手に活かしていけるソリューションとして、ご活用いただければと考えています」(小沢氏)という。
いきなりフルスロットルで走るレスキューサービス
「プロフェッショナルサービス」は、リネオが長年にわたる組み込みシステム開発で蓄積したノウハウや先進のLinuxテクノロジーを融合させることで、ユーザーの要求仕様に即したLinuxシステムを受託開発するものだ。さらに、システムの不具合を短期間で修正する「レスキューサービス」は、リネオならでのサービスである。「レスキューサービスは、基本的に2週間の時間をいただいています。しかし、万が一2週間で解決できないときは、いったん調査報告を実施し、これからの進め方などをお客様と協議しています」(小木曽氏)。なかには開発中のシステムを持ち込まれることもある。「Linuxで製作したシステムの出荷が間近に迫っているが、どうしても修正できない不具合があるといったお客様にも対応しています」(山田氏)。
通常のプロジェクトはある程度の助走期間があるが、レスキューサービスはいきなりフルスロットルで走るようだ。「エンジニアにとっては過酷ともいえるサービスですが、リネオのこれまでの組み込みLinuxについての豊富な経験と多くの蓄積があるからこそ提供できるサービスです」(山田氏)。最終的にはドキュメントも提供している。
これからLinuxという意味の「これりな」講座
最近スタートしたサービスとして「リネオテストラボ」がある。「いままで個別に提供していたセキュリティーサービスやシステム検証などを統合したものです。オープンソース系のOSは自己責任が基本となりますが、お客様が期待する品質との格差を埋めるサービスをリネオが提供することで、安心感をお届けしたいという趣旨で開始しました」(小木曽氏)。カーネルに対するセキュリティを検証し、問題があればパッチを当てるなどの対処をしたり、カーネルのリビジョンが上がる際に発見された不具合の修正も実施している。また、SoCベンダーのエラッタ情報も反映しているという。
さらにリネオでは、「これからLinux」という意味の「これりな」という無料の講座を不定期で開催している。「最近、別のOSからLinuxへの移行が増えています。Linuxへ移行をお考えなら、これりな講座をご利用ください」(山田氏)。「リネオは、安心してLinuxを使っていただきたいという思いから製品やサービスを提供しています。別のOSからの移行や、すでにLinuxをお使いのお客様もリネオを活用していただけたらと思っています」(三宅氏)。
小林氏も、「製品開発のラストワンマイルという大変なところを一緒に経験してきており、今後もお客様と一緒になって満足できる製品やサービスを提供していきます」という。
リネオのソリューションは、5月開催のESEC 2015や6月開催のET West 2015などの各種展示会への出展を予定している。興味のある方は是非足を運んで欲しい。
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