Nuvoton Technologyは、2000年からArm®パートナーとなり、コアを搭載した各種マイコンを開発・提供してきた。今号では、日本国内でも本格的な拡販を開始した9コア搭載メディアプロセッサ(N329ファミリ)を紹介する。設計自由度とコストパフォーマンスに優れたこの製品は、まさに小慣れたコアと台湾ベンダーならではのベストミックスといえるソリューションだ。
目次
いち早くArmアーキテクチャを採用した実績
Nuvoton Technology(以下、Nuvoton)は、台湾に本社を置く半導体ベンダーのウィンボンド・エレクトロニクスから2008年7月に分割された。分割のとき、ウィンボンド・エレクトロニクスのロジックIC事業の製品ライン、コア技術、提携パートナー、クライアントを引き継いだ。日本では分社していないため、ウィンボンド・エレクトロニクス株式会社として営業している。
Nuvotonは、いち早くArmアーキテクチャを採用し、2002年にArm7/9、2009年にCortex®-M0、さらに2013年にはCortex-M4を搭載したマイコンをラインアップに加えた。「Nuvotonは、Arm7/9、Cortex-M0、Cortex-M4などを採用した多くのマイコンを提供しています。Armの歴史の中でもNuvotonはArm社の近くに居続けていたと自負しています」(ウィンボンド小野氏)。
2013年のワールドワイドでの出荷実績は、Arm7/9搭載マイコンで1000万個、Cortex-M0搭載マイコンで3600万個である。ちなみに、日本の顧客向けには、Arm7/9搭載マイコンで100万個の実績を持つ。Cortex-M4は、現在デザインが進んでいるところだ。
日本でも本格的にスタートしたSoCの製品展開。マルチダイによリ容易な設計・高品質・コスト低減を実現
いよいよ国内でも開始したメディアプロセッサ(N329ファミリ)は、Arm9を搭載し、SDRAMをスタックするMCP(Multi-Chip Package:マルチダイ)を採用することで省サイズ化を実現したものだ。「SDRAMを内蔵したMCPにより、ユーザーにとってデバイス数を減らすことができるため、コンパクトな基板が設計できます。また、LQFPを採用することで2〜4層のプリント基板で設計が可能となるため、大幅なコストダウンを実現できます。これらのメリットによって生産(実装)不具合率も大幅に低減可能です。さらに、EMI(Electro Magnetic Interference)の悪影響も低減できるなど、多くのメリットもあります」(Nuvotonアーノルド氏)という。CPUダイにメモリダイをスタックするMCPは、品質を気にするユーザーもいるが「NuvotonはMCPで既に多くの出荷実績を持っており、不具合率は通常のシングルダイ製品と変わりありません」(Nuvotonジョンソン氏)。
もちろん、LinuxのBSP(Board Support Package)も用意されている。「LinuxのバージョンはLinux 2.6.35であり、約3秒という高速起動を実現しています。Wi-FiはUSBドングルやSDIOで対応が可能です。」(ジョンソン氏)。
タッチパネル付きの小型デバイスに有効なN3290xシリーズ
N3290xシリーズは、Arm926コアを200MHzで駆動させ(1.8Vの単一電源)、キャッシュメモリは命令/データ共に8Kバイトを搭載し、2~32MバイトのSDRAMをスタックで搭載している。さらにモーションJPEGのデコーダおよびTFT LCDインタフェース、2M画素までのCMOSセンサーI/Fも搭載。640×480画素までのビデオ再生が可能だ。
内蔵するADコンバータは、4ワイヤの抵抗系(X+、X-、Y+、Y-)のタッチパネルなどを接続できる。USB1.1ホストとHS(High Speed)対応USB2.0を内蔵し、SLC(Single Level Cell)とMLC(Multi Level Cell)のデュアルNANDもサポート。ECC(Error Correction Code)は、4/8/12/15ビットのBCH符号が用いられている。
パッケージは、通常の14mm角のLQFP(128ピン)に加え、LCDインタフェースを省くことで10mm角のLQFP(64ピン)という省サイズな製品も提供している。N3290xシリーズのN32905U1DNのアプリケーション例として、タッチパネル付きの小型デバイスの構成を紹介する。DAコンバータもあり、直接ヘッドフォンなどへのオーディオ出力ができ、パワーアンプを接続することでオーディオ出力を増幅できる。Nuvotonからは、ISD8101というパワーアンプのチップも提供されている。汎用入出力ポートにはキーボードやUART、JPEG、USB1.1が接続可能で、デバッグツールを接続した開発も可能だ。
ビデオ再生機能を強化したN3291x
N3291xシリーズは、Arm926コアを300MHzで駆動させ(1.8Vの単一電源)、MPEG4およびモーションJPEGのコーデックというマルチフォーマットデコーダを内蔵している。OpenGL1.1のアクセラレータをハードウェアで搭載しており、CPU負荷を低減しながらOpenGL対応のコンテンツを再生可能だ。キャッシュメモリは命令/データ共に16Kバイトを搭載し、32~64MバイトのDDR2メモリをスタックで搭載している。「N3291xシリーズはN3290xシリーズと比べて、ビデオ再生機能などが強化されています」(ジョンソン氏)。
TFT LCDインタフェースが内蔵され、800×600画素までのビデオを30fps(フレーム/秒)で再生できる。USB1.1のホストとHS対応USB2.0を内蔵し、SLCとMLCのデュアルNANDもサポートしている。
指紋や画像を扱う製品でメリットを発揮するN3292xシリーズ
N3292xシリーズは、Arm926コアを240MHzで駆動させ(コアのみ1.2Vの単一電源)、H.264のコーデックに加え、TFT LCDインタフェースを内蔵し、1024×768画素までのビデオを30fpsで再生できる。キャッシュメモリは、命令/データ共に8Kバイトを搭載し、32~64MバイトのDDR2メモリをスタックで搭載している。CMOSセンサーインタフェース、SDHCインタフェース、10ビットのADコンバータをそれぞれ2系統搭載し、HS対応USB 2.0のホストとデバイスを内蔵。さらに、10/100MbpsのEthernet MACも持つ。もちろん、評価キットも用意されている。NANDは、SLCとMLCのデュアルをサポートしており、ECCは24ビットのBCH符号が用いられている。
「CMOSセンサーI/Fが2系統用意されていることから、たとえば、前後の車載カメラの映像を同時に処理したり、3D写真などに応用することも可能です」(ウィンボンドワギー氏)。
「H.246の映像について、N3292xシリーズはCMOSセンサーとコーデック機能がシングルチップ内に収まっているため、コンテンツの改ざんができません。しかも、Ethernetなど有線で出力することがポイントです。たとえば指紋や写真などを扱うアプリケーションにおいて、メリットを感じてくれるユーザーが多いのも事実です」(アーノルド氏)。
Cortex-MとCortex-Aの中間市場を狙ったArm9ベースのSoC
現在開発中のN3293xは、Arm926コアを500MHzで駆動させる予定だ。モーションJPEGおよびH.264 は、フルHDを30fpsで再生できる。CMOSセンサーやHS対応USB2.0も搭載する。
Arm9コアで500MHz駆動するマイコンは珍しい。Cortex-Aシリーズにした方が良いと思われるが、それに対してジョンソン氏は、「Cortex-Aでは、より微細なプロセスが必要です。動作周波数もGHz単位になるなどメモリも含めてコストアップとなってしまいます。Arm9コアなら、ドライバなどのソフトウェア資産の流用も容易なため、効率的かつローコストな開発が実現できます」という。「現状の製品であればArm9コア(200〜400MHz)でも良いが、今までと同じ動作周波数では少し物足りないというユーザーがいるのも確かです。そこで500MHz動作にしました。Cortex-Mではもの足りず、Cortex-Aでは、逆にオーバースペックとなるアプリケーションに向けたものです」(ワギー氏)。
Wi-Fi搭載製品など、これまでにも数多くのアプリケーションに採用
アプリケーション例として、N3290xシリーズおよびN3291xシリーズは、モーションJPEGのインターネットカメラ、Wi-Fiカメラ、指紋認証、その他のWi-Fi製品、各種インタフェース装置など、数多くの適用例があるという。
「送信側はモニタせず受信側でモニタするような防犯カメラやベビーモニタ、ドアホンなどがあります。また、スマートフォンをリモコン代わりに操縦する玩具などがあります」(アーノルド氏)。さらに、10mm角のLQFP(64ピン)のアプリケーション例として、ネットワーク接続モジュールなどが考えられるという。「N3290xシリーズだけでWi-Fi処理ができるので、極めて低消費電力なモジュールを構築できます。このモジュールを家電など、今までネットワークに繋がっていなかった製品に搭載することで、IoT機器として簡単にネットワーク接続ができるようになります」(ジョンソン氏)。
「LCDインタフェースを省いたN3290xシリーズでも、CMOSインタフェースで録画ができるなどビデオレコーダーモジュールを構成できます」(アーノルド氏)。さらに、QRコードリーダーモジュールなども構成できるという。
N3292xシリーズのアプリケーション例として、より高い性能を活かし、Wi-Fi IPカメラやドアホン、Wi-Fiを搭載した玩具などがある。「昨年以降、お客様から性能・価格面で高評価をいただいており、今年から本格的に日本市場をターゲットにすることが決まりました。現行マイコンからの置き換えの話も進んでいます。さらに、車載機器メーカーでも、低コストながら使い勝手の良いマイコンとしてご評価をいただいています」(小野氏)。さらに、まもなく量産に入るアプリケーション例としてカードリーダーがある。名刺をスキャンして加工し、魅力的な表示にするまでの処理をマイコン内ですべて行うものだという。
パートナーシップの強化を大きなテーマとして推進
Nuvotonでのサポート体制は、①台湾本社が行う台湾/中国向けのものと、②日本国内のそれとに分けられるという。
①についてジョンソン氏は、「中国ではデザインハウスとパートナーを組んで展開しています。デザインハウスには得意分野があるので、監視カメラや玩具といったアプリケーションごとの取り組みになります。現在、約40社のパートナーと協業しています」という。
②については、ユーザー自身で開発・製造する場合と、デザインハウスを活用する2つのケースに分けられる。「たとえば、前述のカードリーダーはデザインハウスの案件であり、それに適したマイコンとしてNuvotonを採用いただきました。デザインハウスには、ソフトもハードも開発できるところと、ソフト開発を専業としているところもあります。Nuvotonとしては、いずれかに特化したデザインハウス同士を繋げて、開発の効率化を図るといったサポートも行っています」(小野氏)。
さらに小野氏は、「日本でビジネスを行っている中、デザインハウスやIPベンダーなどとのパートナーシップを大変重要視しており、2014年はその強化を大きなテーマとして推進していきます」という。パートナーシップの一例として、N329ファミリでもIPベンダーが開発したIPが検討されているとのことだ。
ユーザーとの相乗効果でビジネスを強く
近年、最新のコアや先端プロセスを採用した競争が激しくなっている。Nuvotonは、その領域でも製品を提供しているが、いわゆる「枯れた」製品も安定的に提供している。「ユーザーの声の中には、最新のマイコンでなくても性能が出せるという方が多いのも事実です。Nuvotonは、コストメリットとエコシステムの活用によって、魅力的なアプリケーションを開発できる環境をご提供することこそが使命だと思っています。旧世代のマイコンを製造中止にしてしまうメーカーがある中、『いまだに提供してくれている』という安心感でご採用いただいているユーザーもいらっしゃいます」(小野氏)。
「計算能力の高いArm9コアと大きなメモリを、小さなパッケージに内蔵したN329ファミリは、日本が得意とする民生分野や産業分野で、付加価値が高く、より競争力のあるアプリケーションを生み出せると思っております」(ジョンソン氏)。最後に小野氏は「海外から見た日本は、民生機器や産業機器においての造詣が深く、さらに半導体技術でも一目置かれています。それはメーカーとしてだけでなく、お客様としても同じです。そのような日本のマーケットにNuvotonの製品をご検討・ご採用いただいているため、単にデバイスの提供だけでなく、最終製品が完成するまで、しっかりとサポートしていきたいと思っています。Nuvotonは半導体を自らの技術で開発し、日本のユーザーにお届けする中、皆様から頂戴した厳しく忌憚のないご意見を製品開発に役立てることでご恩返しをしています。今後も、与え・与えられる関係の中で、より相乗効果を高められるビジネスを展開していきたいと考えています」とまとめた。
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