半導体メーカ発、CBM(状態基準保全)ソリューション。センシングからクラウドまで 産業IoTをスケーラブルに

日本の産業IoTの課題の一つである「マシンメンテナンスにおけるCBM(状態基準保全)」には、機器の振動解析が欠かせない。アナログ・デバイセズ(以下、ADI)は、「ソリューション・プロバイダ」として、高精度MEMSセンサー、エッジ・コンピューティング、ワイヤレス・ネットワーク、ゲートウェイ、クラウド、ソフトウェア・パッケージまでを包括したパッケージ・ソリューションを“日本主導”で提供する。これまでバラバラに組み上げていた従来の手法から、量産から運用までをも見越した効率的なソリューションだ。

メインイメージ
集合写真(左より)
アナログ・デバイセズ株式会社 プラットフォーム・ソリューション プラットフォーム・プログラム・マネージャ 高松 創 氏
アナログ・デバイセズ株式会社 インダストリアル&インフラストラクチャー セグメント フィールド・アプリケーション・エンジニア 柿沼 淳 氏
アナログ・デバイセズ株式会社 プラットフォーム・ソリューション プラットフォーム・プログラム・マネージャ 遠藤 真樹 氏
株式会社 CANDY LINE 代表取締役 馬場 大輔 氏
APS SUMMIT 2018 SEP

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半導体メーカ発、CBM(状態基準保全)ソリューション

――半導体メーカであるADIが、今回クラウドまで含むプラットフォーム・ソリューションをリリースされました。

高松(ADI):ADIはご存知のように半導体メーカですが、課題を抱える産業IoTのお客様は、課題解決可能なソリューションを弊社に直接求めてくるケースも増えています。今回紹介するのは、日本リージョン主導で創った新しいCBMソリューションです。末端のセンサーで拾ったデータを、一番上のクラウドにまで一気通貫で上げることが可能です。

――パッケージの内容を教えてください。

高松:末端のセンサー、エッジ・コンピューティングを実現するMCU(マイクロコントローラ)、有線/無線接続を選べる通信方式、ゲートウェイ、クラウド、そしてこれらをフレキシブルにカスタマイズできるソフトウェアで構成されています。個別の要素として、例えばセンサーや通信方式などは、お客様のニーズに合わせて自由にチョイスいただけるようになっています(図1)。

図図1:振動解析システムの全体構成。

――CBMソリューションにおける、それぞれの製品および役割は?

高松:CBMで多く利用される振動、つまり加速度を計測するセンサーには、MEMS加速度センサーADXL1002を採用しました。これまでは、高価な圧電素子センサーのみが可能だった高周波振動計測の領域を、半導体MEMSセンサーで置き換えることにより、ローコスト化はもちろんですが、扱いやすさ、DC(重力)からの加速度、温度変化に対するフラットな特性も同時に実現しています。

遠藤(ADI):エッジ・コンピューティングも本ソリューションの特長です。ADIはセンサーハブとして低消費電力MCUもラインアップしています。信号解析に最適なArm® Cortex®-M4コア(FPU機能搭載)を搭載したADuCM4050を採用しました。加速度センサーの情報は、数Mbpsと負荷が高くなる傾向にありますが、こうした情報をMCUが信号解析することで、コンパクトなデータ量になります。ソフトウェア・ライブラリも同梱しており、エッジ上の周波数解析をはじめとした様々な処理を、お客様の環境にあわせてフレキシブルにデザインできます。

高松:ゲートウェイとクラウドは、本日お越しいただいたCANDY LINEさんの製品を利用しています。従来の組み込み開発では、エッジとクラウド間の通信部の開発が難点でした。CANDY LINEさんの製品は、そこを補完できるため、お客様は最短工数でセンサーtoクラウドを実現できます。

――CANDY LINEの手がけるサービスを教えてください。

馬場(CANDY LINE):事業としては大きく3つ、IoTハードウェア製品の製造・販売、自社製品用ソフトウェアの開発、そしてクラウドサービスの開発・提供を行っています。まず、ハードウェア事業は、Raspberry Piをはじめとするシングル・ボード・コンピュータ向けの通信ボードを開発・提供しています。ソフトウェア事業は、通信ボード用のドライバと、エッジ・コンピューティングの設計ができるNode-REDベースのツールを開発・提供しています。クラウドサービスも、同じようにNode-REDベースのツールを開発し、お客様ごとに環境を用意し提供しています。

――半導体メーカの真逆の位置と思われる「クラウド」までをソリューションに含めた理由は何でしょう。

柿沼(ADI):きっかけは、ADIが持つたくさんのアナログ半導体やセンサーのデータを、サービスを作る方々に利用していただくためにはどうしたらいいか、という課題から始まりました。センサーtoクラウドのシステムで一番ネックとなるのが、ゲートウェイの部分でした。IoTで広く利用されるシングル・ボード・コンピュータを利用しても、組み込みLinux、サーバ、データベース、表示方法など考えることが沢山あります。そのうえ、プログラミング言語も違うため、非常に大変です。こうした課題を抱えていたときに、CANDY LINEさんとお会いし、ADIのセンサーをBluetooth®マイコンに繋ぎ、Raspberry Piに飛ばして、クラウドでデータを見るという構成を作りました。これがアナログ技術セミナーで大変好評で、今後のサポートも考えMCUや通信部分をADIのものに置き換えていく取り組みの結果、本ソリューションの提供に至りました。

ソリューション・プロバイダとしての役割を担う

――外資系の半導体メーカが日本リージョン主導でソリューションを作り上げるのは、珍しいですね。

柿沼:日本だけでなく、リージョン毎にそれぞれ固有の課題が生まれてきます。こうした隙間を埋めていく活動をすることで、最終的にADIの半導体が支持されていく、と考えています。半導体を売るために何かをするのではなく、課題を解決する手段として半導体があり、ADIはラインアップにも恵まれています。それを日本市場でのさまざまな課題解決に役立てたいと常々考えております。

高松:一言でいえば「ソリューション・プロバイダ」でありたいと思っています。何かをインテグレートするだけでなく、課題解決を主題に活動する企業風土を大切にしています。お客様の課題を伺い、それが困難であればあるほど解決しがいがありますし、我々の高性能な製品がミートします。プレイヤー、コントリビュータ、インフルエンサが日々変わる時代ですから、日本主導で発信するほうがスピード感も出ますよね。ADIは日本法人として、すでに48年の歴史があり、しっかりと日本に根づいていますので、外資系ではありますが、フレキシブルに活動できるわけです。

――本ソリューションが想定するお客様は、どのような分野になるのでしょうか?

高松:今回の事例としたマシンメンテナンスは、日本の産業分野における課題の一つです。職人と呼ばれるベテランが減る流れにあり、彼らの暗黙知は引退すると無くなってしまいます。そこで、メンテナンスの効率化というテーマが生まれました。ただ、メンテナンスをする方々は、半導体を直接購入しない方々です。そのため課題を伺いに行くと、半導体単体ではなく、ソリューションで持ってきて欲しい、という話になりますので、今回のソリューションを組み上げました。お客様のニーズに合わせて、我々が提供するものも常に変化しています。

――暗黙知をソリューションで解決するには、高い技術力が必要となるように思います。ADIの売りは、ズバリなんでしょう?

遠藤:そこは一重に、センサーの精度に尽きると思います。人の主観が入らない中で正確な判断を行うために、まず必要とされるのは正確な物理量の計測です。メンテナンス、省力化、省人化に対するソリューションは、ほとんどが一品物、案件ごとに違う要件があります。しかし、すべてに通じる土台は、リーズナブルな価格の中で提供されるセンサーの精度です。数十万円あればどんなものも測定できますが、普及させるには妥当な価格で製品にしなければいけない。ADIの提供する「高精度な半導体」の価値が、もっとも活かされる場面だと捉えています。

エッジとクラウドをつなぐオープンソースとゲートウェイ

――エッジ・コンピューティングはどのように貢献するのでしょう?

遠藤:今回話題としているマシンモニタリングの分野では特に顕著ですが、センサーから大量のデータが発生します。エッジ・コンピューティングは、大量のデータから、いかに必要な情報を抽出するか、というポイントに大きく貢献します(図2)。皆さんご存じのように、モノの監視における99%以上のデータは、平常時は見なくてもいい情報です。エッジ・コンピューティングは、情報を圧縮でき、エッジとゲートウェイ、クラウド間のデータレートを最適化し、無線通信や広域回線越しの情報を共有できます。つまりIoTですね。もちろん、お客様に合わせた解析でなければ本当に見たい情報は失われてしまいますので、カスタマイズできるという点も非常に重要になります。本ソリューションは、エッジ・コンピューティングをできる限り汎用化することにより、多くのお客様にリファレンスとしてご利用いただけると考えております。

図図2:半導体加速度センサーADXL1002(左)、エッジ・コンピューティング用のMCU ADuCM4050(右)。

――今回は、フレキシブルなシステムの一部にCANDY LINEのサービスが含まれています。

馬場:CANDY LINEは、あくまでもデバイス側で集めた情報をクラウドに送る中継部分に着目しています。ゲートウェイから先に、何をつなげるかは、それぞれ専門の方がいらっしゃると考えています。今回のMCUやセンサーですね。

――サービスへのこだわりは何でしょう。

馬場:単純である、という点につきますね。開発ボードの購入から、広域通信網やサーバの契約、クラウドサービスの開発はかなりの時間がかかります。中継部分に手間をかけたくない、他社との差別化になる開発を優先したい、といったバランスを解決できる、ワンストップでわかりやすいクラウド開発環境を提供しています。皆さまのできる範囲を少し広げるお手伝いができたら、という想いでサービスを提供しています。

――ADIとしてCANDY LINEを使った感想はいかがでしたか?

柿沼:びっくりするほど親和性が高いですね。組み込みLinuxというとCを書いて、Node.js®を書いて、次はクラウドのAPIを理解するといった準備や開発をせずに済みました。個別の言語ではなく、クラウドもゲートウェイも、同じデザインのGUIで作ることができる点は特に使いやすかったと感じています(図3)。従来であれば十人程度で捌いていた開発を自分の手元のみで完結できます。またOSSとして再利用され、また違う良さが加わったりする、そうしたフィードバックを活用できることも非常に良いと思います。

図図3:クラウド開発GUI 「CANDY EGG」(左上)、ゲートウェイ開発GUI 「CANDY RED」(左下)、6kHzの振動をスマートフォンからモニタリング(右)。

馬場:データフローを意識するだけで、設計できるNode-REDをベースにしています。本ソリューションは、Nodeと呼ばれる機能の「箱」をADI様と協力して開発しました。ユーザはGUI上で利用したい機能や入力、出力を並べ、データの流れを意識して線をつなぐだけで開発できます。さらに、Nodeは必要に応じてWeb上から追加機能をインポートできます。Node.jsなどを利用し自分でNodeを作るアドバンスドな開発も可能です。

柔軟なワイヤレス環境を実現するSmartMesh®

――なるほど、フレキシブルという実感が湧いてきました。開発工数へのメリットをさらに教えてください。

高松:実際の製品や現場で運用できるよう、デザイン・スケーラビリティにもこだわって仕上げました。開発でよく聞くのは、まず10台のPoCで数千万円かかり、次に1000台にデプロイしましょう、となったときに作り直しになる。スケーラビリティがないため、PoCから先へ進むことが難しくなるんですね。本来、IoTというものは、スケーラブルに、そしてパラメータを変えるだけでデプロイできるよう、デザインされていることが理想だと考えています。

柿沼:そういう意味で、今回のソリューションは利用するセンサーを変えるだけで様々な用途に転用できます。また、OSSも利用しているため、既存の開発資産を取り込むこともできるオープン・イノベーションのプラットフォームと言えます。センサーとゲートウェイ間の通信には無線方式も選択できるようにしています。さらにADIでは、デザイン・スケーラビリティに優れた推奨構成として「SmartMesh」をご提案しています。SmartMeshは、アナログ・デバイセズの無線通信方式で、ハードウェアだけでなくソフトウェア・スタックも提供しているため、非常に導入しやすく本ソリューションとの親和性にも優れています。

――SmartMeshのメリットは何ですか?

高松:SmartMeshのメリットは主に3つあります。まずは、ハードウェアだけでなくソフトウェアを含んでいること。2つ目にデザイン・スケーラビリティが高いこと。3つ目に、電波環境の悪い中でも安定した通信ができることです。ソフトウェア・スタックはGitHubにすべて公開していますので、すぐに無線通信をご利用いただけますし、最新のブラッシュアップされたコードも入手できます。ハードウェアとしてはWi-Fiと同じ帯域である2.4GHz帯の無線通信を採用しているため、日本で作ったシステムを海外展開することも容易です。スケーラビリティを実現するためには、クラウド・ベースの管理機能であるVManagerがマルチ・ゲートウェイやIPv6アドレッシングなどを提供しているため、PoCからデプロイまで作り直しの必要がありません。また、通信が安定していることも大きなメリットです。産業機械は鉄骨や壁が多い場所に設置されるため、電波環境があまり良くありませんが、SmartMeshはメッシュネットワークの採用や、TSCH(タイム・シンクロナイズド・チャネル・ホッピング)による周波数帯を活用することにより、常に安定した通信を実現できます。

――IoT/M2M展 2018 春にも出展されていましたが、市場の反応はいかがでしょうか?

柿沼:部品として興味がある方はもちろん、トータルで欲しいという方もいらっしゃいました。全体にいえることは、クラウドも組み込みも垣根がなくなり、エッジからクラウドまで誰かに頼らず自分でデザインできる、という点が最も好評でした。

高松:ADIはコンスーマグレードより上の、産業分野の最前線でご活用いただける半導体を提供しているため、バイタル・モニタリングや成分解析など、これまでにはなかった課題に関するご相談も増えています。今後も本ソリューションのようにフレキシブルで、よりブラッシュアップしたパッケージを提案していきたいと考えています。

――両社の今後の展望を教えてください。

馬場:CANDY LINEの製品がより多くの通信をサポートできるように、ハードウェアを拡充する予定です。クラウド側はこれまでクローズドで運用していましたので、今後はオープンにして、多くのお客様にご利用いただけるようブラッシュアップしていきます。

柿沼:現在、ADIの製品で測れない物理量は無いので、対応するセンサーの種類を増やし、クラウドを含めた事例をどんどん増やしていきます。要望が多い無線通信への対応や、ゲートウェイ上のコンピューティング・リソースのさらなる活用も検討しています。ご期待ください。

――本日はありがとうございました。

APS EYE'S

他に類を見ない精度を誇る加速度センサーADXL100xを軸とした振動計測ソリューションは、低消費電力MCUのADuCM4050とソフトウェア・ライブラリにより、高いパフォーマンスを発揮する。ソリューション・プロバイダーとしてのADIは、IoTでは欠かせないゲートウェイとクラウドサービスを統合することで、センサーtoクラウドを実現するプラットフォームベンダーへとシフトチェンジする。ADIの無線ネットワークであるSmartMeshを加えることで、PoCにとどまらず、誰にでもIoTのサービスインが可能になった。しかも、簡単に。

APS SUMMIT 2018 SEP

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