困難を伴うマイコン移行の決め手は、確かな統合開発環境と安心サポート

遊技機メーカーのニューギンは、パチンコの電飾や可動体、音響を制御するマイコンを、半導体メーカ独自コアからArmコアのNXP社「LPC4330FET」に変更した。LPC4330FETは、Arm® Cortex®-M4コア(FPU機能搭載)とCortex-M0コアを混載する珍しいマイコン。ニューギンにとっては、初めてのArmマイコンかつ初めてのデュアルコアソフトの案件に、IARシステムズ社(以下、IAR)の統合開発環境「IAR Embedded Workbench for Arm(以下、EWARM)」を導入。EWARMの利便性+手厚いサポート力により、マイコン移行のプロジェクトを成功させ「CR 花の慶次 X(いくさ)」の豪華で傾(かぶ)いた演出を実現した。

メインイメージ
集合写真(左より)
株式会社ニューギン 研究開発本部 名古屋開発部 次長 松永 崇 氏
IARシステムズ株式会社 営業部 マネージャー 原部 和久 氏
株式会社ニューギン 研究開発本部 名古屋開発部 ソフト課 主任 島田 昂季 氏
株式会社ニューギン 研究開発本部 名古屋開発部 ソフト課 エキスパート 宮崎 武文 氏
APS SUMMIT 2018 SEP

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制約の多い遊技機開発。発光・役物演出はどんどん派手に

――ニューギンはどのような企業ですか?

宮崎(ニューギン):パチンコ、パチスロといった遊技機の開発・製造・販売を行っている企業で、年間十数機種を市場へ提供させて頂いております。「あそびにマジメ」をスローガンに、お客様に楽しい娯楽を提案し、社会に貢献していきたいというのが我々の願いです。

――ヒット商品は?

宮崎:【CR花の慶次】シリーズが幅広い層から好評頂いております。昨年シリーズ発売から10周年を迎え、今後も更に進化した【花の慶次】を皆様にお届けします!

――IARの事業内容を教えてください。

原部(IAR):スウェーデンが本社のグローバル企業で、組み込み向けの統合開発環境「IAR Embedded Workbench」を主力製品として提供しています。マイコンや組み込みプロセッサを対象としたC/C++言語のコンパイラやデバッガ、コード解析ツールなどを自社開発しています。今回、ニューギン様が導入した「EWARM」はIAR Embedded WorkbenchのArm版です。

――そもそもパチンコの電子システムは、どのような構成になっているのでしょう?

島田(ニューギン):弊社のシステムは、「主制御基板」、「演出制御基板」、「液晶表示基板」の3枚のボードで構成されています。主制御基板は、盤面中央下部のいわゆる“へそ”に玉が入賞したときに、当たり外れの抽選処理を行います。8ビットマイコンを搭載し、今でもアセンブリ言語でプログラミングしています。

――演出制御基板と液晶表示基板の役割は?

島田:演出制御基板は、パチンコの盤面や枠に配置したLED、可動体(役物)を動かすモータ、およびスピーカのサウンド出力を制御します(図1)。演出に最も貢献しており、今回のマイコン変更プロジェクトの対象となった基板です。演出制御基板は、どの演出を実行するかの抽選処理も行っており、その抽選結果に基づいて液晶表示基板が盤面中央の液晶画面に必要な図柄や動画を表示します。

図図1:パチンコ遊技機と演出制御基板。

――LEDやモータの数は?

松永(ニューギン):盤面・枠合わせて400~600個のLEDを搭載しており、その大半がフルカラーLEDになります。モータは15個程度搭載している機種もあります。

――ものすごい数の制御対象ですね。遊技機特有の制約はありますか?

島田:昨今では遊技仕様も多様化しており、主制御基板の処理も複雑化していますが、主制御基板の容量は最大プログラム3Kbyte、ROM3Kbyte、RAM512byteの中で制御されています。プログラム言語もアセンブラで書かれており、電子部品に関しては表面実装部品が使えません。

――演出制御基板や液晶表示基板に制約はありますか?

松永:映像データを格納する液晶表示基板のメモリ容量に64Gbitの上限があります。

宮崎:他の業界の組み込み機器の中には、製品を出荷した後、オンラインでソフトウェアを更新できるものがあります。しかし、遊技機の場合、外部との通信は禁止されているため、わずかな不具合も許されません。さらに、EMIはもちろん、不正な手段による出玉獲得を防止する観点から、EMSへの対策も重要です。

採用の決め手はコンパイラ性能、サポート、使い易さ

――ニューギンがEWARMを導入したきっかけは?

宮崎:2014年に、松永をリーダーとして、演出制御基板のマイコンを変更するプロジェクトが動き出しました。新しいマイコンに対応した開発環境を探していたところ、半導体商社の方からIARさんを推奨していただきました。

――どのようなマイコンに変わったのでしょう?

宮崎:以前までは、演出制御基板には半導体メーカ独自コアのマイコンを使っていました。これをNXP社の「LPC4330FET」に変更しました。LPC4330FETは、Cortex-M4コア(FPU機能搭載)とCortex-M0コアを搭載した非対称動作デュアルコアのマイコンです。

――なぜ、マイコンの変更が必要だったのですか?

松永:7~8年前は、独自コアマイコンの性能で問題ありませんでしたが、演出のボリュームが増え、対応することが難しくなってきました。

宮崎:同じ時期に他の独自コアマイコンなども試していましたが、当時、Armコアのマイコンやアプリケーションプロセッサがどんどん勢力を伸ばしており、今後の製品展開等を考え、最終的にArmマイコンを採用しました。

――新しい開発環境を選定する際に、どのような点に注目しましたか?

島田:演出制御のソフトウェアについては、開発業務の一部を協力企業に委託しています。マイコンが変わり、開発環境が変わっても、協力企業様の作業効率が落ちることのないように、ツールの直観的な操作性に着目しました。もともと半導体メーカ内製ツールを使っていたので、そのツールに近いGUIや日本語メニューがほしいと思っていました。

――EWARM採用の決め手は?

宮崎:コンパイラの性能が優秀だと思いました。Arm純正の開発環境であるKeil® MDK-Armも評価しました。当時は「純正ツールのほうがコードの最適化能力が高いだろう」と思っていましたが、EWARMのコード効率もまったく引けを取りませんでした。さらに、本格導入の前からIARさんの手厚いサポートが受けられたことも、EWARM採用の後押しとなりました。

――どのようなサポートを受けたのでしょう?

宮崎:我々は名古屋で開発しているのですが、困ったときのタイムリーなレスポンスに加えて、IARさんに来て頂きオンサイトハンズオンセミナを開催してもらいました。「Armマイコン入門」、「他開発環境からEWARMへの移行の手引き」、「マルチコアの使い方」について、丁寧にレクチャーしていただきました。これらの手厚いサポートがあり、当初の不安がすべて払拭され、開発に集中できたことは大変感謝しております。

原部:我々は「お客様の開発を止めない」というポリシーの基、24時間(1営業日)以内の1次回答を実践しています。今日ではサポート件数の80%以上が5営業日以内にクローズ出来ています。

初めてのArm、初めての複数コア。熱意と粘りで性能を絞り出す

――EWARMをどのような開発プロジェクトに適用しましたか?

宮崎:2016年11月に発売した「CR花の慶次 X」の演出制御基板のソフトウェア開発に適用しました(図2)。

図図2:演出制御基板の機能の概要。

――基板には、LPC4330FETのほかにどのようなチップが載っていますか?

宮崎:サウンドLSIやRTC IC、FRAM、電源ICなどが実装されています。また、LEDドライバICやモータドライバIC、GPIOインタフェースICが外部にあり、各々が当マイコンと通信しています。

――Cortex-M0/Cortex-M4コア(FPU機能搭載)の役割分担は?

宮崎:Cortex-M0コアはコプロセッサの位置付けです。Cortex-M0コアが外部I/Oの割り込み処理、及びペリフェラルコントロールを行う事で、Cortex-M4コア(FPU機能搭載)は各種演出の制御ロジック処理にフォーカスできるようにしています。

――OSやミドルウェアは?

宮崎:OSはありません。ベアメタルで実行しています。基本ソフトウェアの部分は、弊社が開発し、一種のSDKとしてアプリケーション開発者に配布しています。基本ソフトウェアの上で走るアプリケーションソフトウェアは、機種ごとに作り直します。

――マイコンが変わったということは、SDKも一から作り直したのですか?

宮崎:マイコンの周辺機能に合わせて、下まわりのデバイスドライバ、およびLED制御やモータ制御、サウンド出力のためのライブラリを作り直しました。

島田:特にSDKの使い勝手に重点を置いています。ビルドする前にいったん中間ファイルに落とすのですが、ここにエラーチェックの機能を入れています。例えば電飾の系統数の誤りなどは、実機を動かす前に分かります。アプリケーション開発者が、小さなバグでつまずかないような作りにしています。

――SDKの開発にはどのくらいの時間がかかりましたか?

宮崎:マイコン変更に伴う演出制御基板開発に始まり、マイコンの通信対象となるデバイスの大幅変更、新規デバイス採用も重なり、SDK完成に至るまで、1年半近くかかりました。但し、開発環境が使いづらくサポートも悪ければ更に時間が掛かり2年以上を要したかも知れません。

――Armマイコンは初めて、デュアルコアも初めて。それでもなんとか乗り切った、ということですね。

原部:実際、「レガシーマイコンから最新マイコンに切り替えたいのだけれど、山ほど理由があって変えられません」という話はよく聞きます。今回、命令セットが変わり、マイコンの動作周波数も極端に上がっています(以前のマイコンは最大32MHz、LPC4330FETは最大204MHz)。今回、移行に無事に成功したニューギン様の重要なプロジェクトの成功に貢献することが出来て非常に嬉しく思います。

宮崎:IARさんの手厚いサポートと高い技術力には、本当に助けられました。

――EWARMを使うようになって、開発プロセスに変化はありましたか?

宮崎:ビルド時間が大幅に短縮しました。半導体メーカ内製のツールと比べて、体感的には1/2~1/3になっています。1日に何回もビルドすることを考えると、かなり効率的になっていると思います。

――EWARMはマルチコア対応の機能を備えています。

宮崎:コア間の通信状況を確認しました。初めてCortex-M4コア(FPU機能搭載)側からCortex-M0コア側へイベントが入ったときは、非常にうれしかったです。

原部:IAR Embedded Workbenchはマルチコアアーキテクチャのデバッグにも対応しており、特に製品の多いCortex-Aプロセッサでの採用実績は多くあるので安心して導入頂けます。今回ニューギン様に、マルチコア対応機能をスムーズに使っていただけたのも、弊社のツールが開発者の利便性を最優先した設計思想のためだと思いますし、「問題なく開発できた」ということが、弊社にとっては何よりうれしいポイントです。

松永:デバイスもツールも、メーカーの開発技術者の情熱がこもった製品です。プロのソフトウェア技術者として、その潜在能力を余すところなく引き出してやりたい、と常々思っています。

――両社の今後の展開は?

島田:CIツールによる自動ビルド、コードの静的解析など様々なサービスを取り入れ連携しソフトウェアの品質向上に寄与できる仕組みを作りたいと考えています。

原部:ハードウェアの進化や、IoT、セキュリティなど、さまざまなユーザーの要求にタイムリーに対応していきます。例えば新たなCPUアーキテクチャとして、2018年2月にRISC-V向けツールサポートをいち早く表明しました。対応ツールは2019年に登場する予定です。「ユーザーが安心して、効率良く、Time to Market に製品開発できるように」というところは、今後もブレずに継続していきます。

――最後に、プロフェッショナルとは?

宮崎:タケフミ ミヤザキ、でしょうか。

――ありがとうございました(笑笑)。

APS EYE'S

遊技機大手ニューギンを取材。華やかな印象とは裏腹に、アプリケーションの開発は堅牢そのもの。IARの統合開発環境は、操作性はもちろん、コンパイル性能、マルチコア対応、コード解析までを網羅。日本語でのサポートは、初めての導入案件に限らず、複雑な開発や長期案件になるほど心強い味方だ。

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