SnapDragonでAI・4K市場に攻勢。SoCの性能を引き出すVIA

組み込みボード/システムベンダのVIA Technologies(以下、VIA)は、Qualcomm®社が組み込み市場向けに供給しているSoC「SnapDragon™ 820E」を搭載したボード製品を発売する。本SoCを搭載したSOM「SOM-9X20」、およびキャリアボードのサンプル出荷を開始した。さらに、NXP社が供給する「i.MX 8X」を搭載した製品や、社内で新規設計したSoC「ZX-2800M」を搭載する製品の開発も進めている。ここでは、SnapDragon 820Eを搭載したボード製品、新規設計したZX-2800M、および外部調達品と内製品を使い分ける同社のArm SoCの選定ポイントを聞いた。

メインイメージ
集合写真
VIA Technologies Japan株式会社 エンベデッド事業部
(後列左より)
シニアアプリケーションエンジニア 李 軍輝 氏
セールスエンジニア 小間 拓実 氏
プロダクトマネージャー Cody 世羅 氏
セールスマネージャー 相川 悦丈 氏
(前列左より)
セールススペシャリスト 廖 似璇 氏
日本統括マネージャー Sonia 陳 氏
APS SUMMIT 2018 APR

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高性能スマホの心臓部を産業用機器や業務用機器へ

SnapDragon 820は、2015年に発表されたスマートフォン向けのSoCである。採用実績は多く、韓国、中国、台湾、日本などの主要なスマートフォンメーカがそれぞれの主力機に搭載している。今回、VIAが発売する「SOM-9X20」(図1上)には、Qualcomm社が長期供給を保証するSnapDragon 820の組み込み対応版「SnapDragon 820E」が実装されている。「米国では、すでに医療系の装置でSOM-9X20の採用が決まっており、SnapDragonが持つ高いグラフィック性能が評価されているようです」(世羅氏)。

図1図1:SnapDragon 820Eを搭載したSOM(上)とインターフェースボード(下)の外観

SnapDragon 820Eは、四つの64ビットCPUコアのほか、GPUコア、DSPコア、ISP(画像処理プロセッサ)コアなどを集積している。CPUの命令セットはArm命令に準拠しているが、CPUコア内部は、Qualcomm社がArm®社からアーキテクチャライセンスを取得して、独自に設計している。またGPUコアもQualcomm社が設計したもので、4K解像度、60フレーム/sの映像表示や、H.264による複数映像の同時デコードに対応している。処理性能は、GPUのGFLOPS値(浮動小数点演算性能)が400~500、Antutuベンチマーク(総合スコア)が13万~14万程度となっている。

SOM-9X20では、SnapDragon 820Eの四つのCPUコアのうち2コアは最大2.15GHzで、残りの2コアは最大1.593GHzで動作させる。例えば、性能重視のアプリケーションは前者のコアで、省電力重視のアプリケーションは後者のコアで実行する、という使い方が考えられる。SOM-9X20はGNSS/GPSレシーバや、Wi-FiとBluetooth 4.1に対応した無線モジュールも備えている。OSは、Android 8.0とLinux 3.18.44に対応する。

SOM-9X20は“システムオンモジュール”なので、単体で使用することはない。必ず開発したインターフェースボードと組み合わせて使用する。VIAでは、ユーザがSOM-9X20を評価する際に利用できるインターフェースボード「SOMDB2」を用意している(図1下)。SOMDB2の基板上には、SnapDragon 820Eが備えるほとんどのI/O信号が引き出されており、4レーン持ったMIPI CSIは、監視カメラやコンピュータビジョン等の活用が期待できる。

VIAでは、SOM-9X20の適用分野として、AI(人工知能)に強い期待を寄せている。ニューラルネットワークを多用するAIアプリケーションは、高性能なGPUやFPGAを使って処理することが多い。SnapDragon 820Eが内蔵する400~500GFLOPSのGPUコアであれば、余裕を持ってAIアプリケーションを実行できる。

このほか、例えば強力な表示とデコードの機能を生かして業務用の高精細ディスプレイ端末を、CPUやGPUの処理能力を生かして工場用の画像処理装置を、さらに無線通信の機能を生かしてワイヤレスプロジェクタ機器を実現できるという。

エントリAIに使えるSoC。価格対性能比を考慮して開発

VIAは、ボード/システム製品に搭載するSoCの一部を自社開発している。その一つが、2018年3月にサンプルチップが完成した「ZX-2800M」である。ZX-2800Mは、同社がサイネージ(電子看板)プレーヤとして出荷している「ALTA DS 4K」に搭載するSoC「ZX-2000M」のGPU機能強化版。例えばGPUコアが内蔵するストリームプロセッサの数を64個から128個に増やしている。

ZX-2800M は、CPUとしてCortex®-A17コアを四つ内蔵する。動作クロック周波数は1.4GHz。動作電圧や動作周波数を動的に変化させるDVFS(dynamic voltage frequency scaling)技術を利用して電力消費を抑えている。GPUコアは独自開発のものを使用している。同社は2000年にグラフィックスLSIメーカであるS3を傘下に収めており、本GPUコアは、S3のノウハウを使って設計した。処理性能は、GPUのGFLOPS値が115、Antutuベンチマークが46651となっている。

AIアプリケーションの処理に求められるGPU性能の最低ラインは100GFLOPSと言われており、本SoCはこの条件をクリアしている。同社では、ZX-2800Mを搭載したボード製品を安価なエントリレベルのAIアプリケーションに利用できると考えている。例えばCaffeやTensorflow、Darknetといった標準的なニューラルネットワークライブラリで開発したモデルを、CPUで実行する場合より約10倍高速に処理できるという。同社では、これらのライブラリを使った顔認識や物体認識などのサンプルコードの提供を検討している。

ZX-2800Mは多様な解像度の映像処理に対応している。例えば4K解像度のH.265データをデコードしながら60フレーム/sで表示したり、1080p解像度、30フレーム/sの映像を同時に8~10画面表示したりできる。さらに、1080p解像度、30フレーム/sの映像に対してH.264による2画面同時圧縮を行うことも可能。

同社は、ZX-2800Mを搭載した組み込みボードの適用分野として、上述のエントリAIのほか、サイネージプレーヤ、カラオケ機器、監視用ビデオレコード、ネットワークカメラなどを挙げている。組み込みボード・システムの製品化の時期は、2018年第2四半期以降になる。エントリAIコンピューティングシステム「ARTiGO A928」の開発を予定している。

耐環境性か、性能か、コストか。市場要求に合わせてSoCを選定

次に、VIAが考えるArm SoCの選定方針について説明する。

これまで述べたようにVIAは、Arm SoCを搭載する同社の組み込みボード/システム製品に、Qualcomm社、NXP社、VIAの3社のデバイスを使用している。VIAの自社SoCは、さらに2種類の系統に分かれる。一方はS3の技術を使う高性能なGPUコアを内蔵する“VIAブランドのSoC”(ZXシリーズ、Elite E1000)、もう一方は自社開発のGPUコアを内蔵しない“WonderMediaブランドのSoC”(WMシリーズ)である。前者はグラフィックス性能が高く、後者はコストメリットを意識した製品、と同社は位置付けている。

つまりVIAは、ボード/システム製品(および、それをベースとする受託開発案件)のターゲットとなる市場の要求に合わせて、3社、4ブランドのSoCを使い分けている(図2)。

図2図2:VIAがボード/システム製品に搭載しているArm SoCとそれぞれの適用分野

例えば医療機器や車載機器への適用を想定したボード/システムには、耐環境性や信頼性、使用可能な温度範囲条件を考慮してNXP社の「i.MX 6シリーズ」を使用している。「i.MX 6DualLiteを搭載した『ARTiGO A820』という小型の組み込みPCが、X線CT(コンピュータ断層撮影)スキャナやMRI(磁気共鳴画像)といった大型の医療装置に導入されています。その装置がどのような状態で稼働しているのか、動作に問題がないのかどうかを監視し、通知する通信ゲートウェイとして採用されました」(世羅氏)。

また、i.MX 6Quadを搭載した産業用PC「AMOS-825」は、JapanTaxi社のタクシー向け車載コンピュータとして使用されている(APS Vol. 12を参照)。VIAでは、i.MX 6シリーズに続き、さらに高性能なi.MX 8XシリーズのSoC(Cortex-A35とCortex-M4を内蔵)を搭載した製品の開発も予定している。

一方、医療機器の中でも高度な画像処理や映像表示が求められる用途には、Qualcomm社のSoC(SnapDragon 820E)を使用している。例えば、(手術中などの)高解像度の映像を高速・低遅延で伝送したり、画像処理により画像中の注目するべき箇所(患部など)を高速に検出・分析したりする装置がある。

業務用機器の中には、競争が激しく、コスト要求が厳しいシステムがある。こうした用途に向けたボード/システム製品の場合、社外調達のi.MX 6やSnapDragonは適用しにくい。コストを抑えられる自社SoCの出番となる。例えば、廉価版のPOSシステムやプリンタ、IoT端末には、WonderMediaブランドのSoCを利用して、市場からのコスト要求に対して応えるケースも多い。

「国内で一番よく使われているのは、4K解像度に対応したサイネージプレーヤです。海外では監視用ビデオレコーダにも採用されています」(世羅氏)。こうした分野のボード/システム製品には、VIAブランドのSoCを使用する。

供給元やブランドの異なるSoCを使い分けているVIAだが、いずれのチップも長期供給を保証している点は共通している。産業用機器や業務用機器は、長期に渡って使い続けられることが珍しくない。SnapDragon 820Eを搭載したSOM、i.MX 6やWonderMediaブランド、VIAブランドのSoCを搭載したボード/システム製品について、同社は7年間、2025年までのサポートを保証している(対象外の製品もあります)。

半導体やスマホの開発力を組み込みのサポート力へ転化

最後に、VIAの技術力やサポート力を育んだ産業的な背景と歴史について述べる。

同社は、1987年にファブレス半導体メーカとして創業。PC用x86チップセットで事業をスタートし、PC関連の部品、オーディオやLANのチップなどを次々と製品化。やがて、Intel互換のx86プロセッサを自社で開発するようになる。これと並行して、自社製の部品を使ったPCのマザーボードやシステムの販売も開始。やがて、組み込みボードや組み込みコンピュータの領域へと事業を広げていった。

半導体事業を強化する過程で、同社は1999年にx86プロセッサの開発会社だったCentaur Technologyを、2000年にグラフィックスLSIの開発会社だったS3を傘下に収めている。一方、まだx86プロセッサの事業が中心だった2008~2009年ころ、VIAは社内でArm SoCの設計に着手していた事業部を独立させ、100%子会社のWonderMedia Technologiesを設立した。WonderMediaは主に民生機器の市場に向けてArm SoCを供給していたが、VIA本体がArm系の組み込みボード/システムの事業に力を入れる方向へと舵を切り、これに伴って2012年にWonderMediaをVIA社内の一事業部に戻している。

同社のSoCの開発力は、主にこの3社(Centaur、S3、WonderMedia)の技術やノウハウがベースとなっている。そして長年、半導体の開発に携わってきた経験から、VIAはArmコアやGPUコアにかかわるサポート力、およびデバイスドライバをはじめとするファームウェアのチューニングの能力に大きな自信を持っている。

これとは別に、VIAのグループ会社の中には台湾のスマートフォンメーカであるHTCが含まれる。同社は2008年に、世界で初めてAndroid OSを採用したスマートフォンを発売し、Androidスマホ市場の立ち上げに貢献した企業である。Android OSのもっとも初期からのユーザとも言える。その意味で、VIAはAndroid OSのサポート力にも自信を持っている。

「現在、VIAは原則として、VIAブランドとWonderMediaブランドのSoCを、一部の例外を除いて、外販しておりません」(陳氏)。つまり、現在のVIAの立場は、製品の差異化のために、自社専用の“(Armコアを内蔵する)システムASIC”を開発しているシステム企業に近い。

このことは、同社の事業が、半導体メーカであるNXPやQualcommの事業と直接競合しないことを意味する。「Arm SoCのベンダは、かつては競合していた分野もあったかもしれませんが、現在は協業相手に変わりました。社内でSoCを開発している、つまりSoCベンダと同等のレベルで顧客をサポートできる、という点は、NXPやQualcommにとっても信頼できる、都合のよいパートナーである、と言えます」(相川氏)。このような背景から、VIAはArm SoCの外部調達先と良好な関係を築いている。これらの企業と緊密に連携しながら、顧客をサポートする体制が整っているという。

APS EYE'S

エントリーからハイエンドまで、Arm SoCのプラットフォームを供給するVIA。これまで培った技術力・サポート力が、各SoCの特性を活かしたSOMパッケージをはじめ、最終製品に必要な部材の長期供給の課題も解決する。さらに、将来のAIや4Kサイネージ市場も的確に捉えている。