みなさん、こんにちは。新連載「Arm® Cortex®-Mコア搭載RAファミリ初心者講座」の第1回をお届けします。今回は「ルネサスの最新Armマイコン「RAファミリ」とは」です。
この連載は、ルネサスエレクトロニクス(以降、ルネサス)のArm Cortex-M(*1)搭載RAファミリ(以降、RAファミリ)について、製品のコンセプトから、各シリーズの特長と強み、開発環境、パートナソリューション、実際の使い方などについて解説します。
初学者でも理解できるように、平易な説明を心掛けるとともに、従来のルネサスマイコンを使いこなしているベテランのエンジニアの方にも、従来マイコンからの移植を含んだ様々な情報を提供できるように努めます。
(*1)Arm Cortex-Mに関してはAPSアカデミーの Cortex-M編と Cortex-M7編をご参照ください。
はじめに
第1回では、RAファミリの紹介から始めて、従来のルネサス32ビットマイコンRXファミリ、Renesas Synergy™との棲み分けを簡単に説明します。そして、RAファミリの概要と併せて、パートナ企業のサポート内容などを説明し、最後に、各シリーズ(RA2、RA4、RA6、RA8シリーズ)について説明します。
RAファミリのルネサスマイコン内での位置付け
(1)ルネサスマイコンの変遷
もともとルネサスは日立製作所と三菱電機のマイコン部門が統合された企業なので、日立のコアと三菱のコアのマイコンがしばらくの間共存していました。さらに、NECエレクトロニクスが統合されて、NECのコアのマイコンが加わり、ひとつのマイコンメーカーとしては、最強の品揃えとなりました。
その後、ルネサス独自コアのRXファミリなどが開発され、古いコアの製品は新コアの製品と統廃合されて来ました。並行してArm Cortex-MのプラットフォームのRenesas Synergyが開発され、豊富な品揃えの中にArmコアが加わりました。そんな中、RAファミリは、Arm Cortex-M搭載の新32ビットマイコンとして開発されました。詳しくは、後ほど解説しますが、従来のRXファミリやRenesas Synergyの32ビットマイコンの範囲を拡充する役割を担っています。
(2)RAファミリの位置付け
ルネサスの製品は「マイコン」「アナログ&パワーデバイス」「SoC」などの多岐にわたっています。RAファミリはその中の「マイコン」に新たに登場したArm Cortex-M搭載の32ビットマイコンです。
「RA」は「Renesas Advanced」を意味します。業界最先端のArm Cortex-M23、M33、M4コアを搭載しています。Arm Cortex-M搭載マイコンには、製品メーカを問わず、互換性がありますが、RAファミリは他のArm Cortex-M搭載マイコンよりも、強力な組込みセキュリティ、優れたCoreMark®パフォーマンス、超低消費電力動作を実現しています。
RAファミリの紹介
(1)RAファミリの概要
RAファミリのマイクロコントローラは、RA2、RA4、RA6、RA8の4シリーズで構成されます。小型でバッテリ駆動のセンサアプリケーションや、高性能で処理集約型の組込みシステムまで適用することが可能です。アナログ機能、通信機能、液晶表示などのヒューマン・マシン・インタフェース、IoTやエッジコンピューティング向けのセキュリティ、産業用としてのモータ、インバータ制御などのための周辺機器を搭載しているので、非常に広い範囲の市場に適用することができます。
(2)RAファミリの特長
RAファミリの特長を5つにまとめます。
- スケーラブルで幅広いラインナップ
- BOMコスト低減に寄与
- 開発をサポートする開発環境とエコシステム
- 実績豊富な周辺とメモリ
- 充実したセキュリティ関連機能
(3)従来ルネサスマイコンからArm Cortex-M搭載マイコンへ
従来ルネサスコアマイコンは大きく分けると78KファミリやR8Cファミリ、H8ファミリなどの8/16ビットマイコンとV850ファミリ、SHファミリ、M32Rファミリなどの32ビットマイコンになります。
Armコアには、8/16ビットマイコンと同等のコンセプトで開発されたCortex-M0とM0+があります。これらは32ビットCPUですが、汎用8ビットと汎用16ビットマイコンの市場をメインターゲットにした性能で、Cortex-M0+は、パイプライン処理を2段にし、M0よりも若干高機能になっています。単純な置き換えであれば8/16ビットマイコンはM0+で十分ですが、将来的に高性能が必要になる場合はCortex-M23以上のCortexをお勧めします。
32ビットマイコンを置き換えるのであれば、Cortex-M23以上になります。どのCortex-Mを選ぶかは、アプリケーションの要求仕様によって決まります。セキュリティを重視するならCortex-M23/33。汎用レベルならCortex-M3/M4、高性能ならCortex-M7などです。ルネサスマイコンならRAファミリ、Renesas Synergyです。
(4)RAファミリに搭載されているCortex-M
Arm Cortex-Mの各コアのコンセプトとRAファミリの各シリーズと対比してみます。RAファミリの各シリーズに搭載されているCortex-Mは、次のようになります。
- RA2 シリーズ:Cortex-M23
- RA4 およびRA6 シリーズ:Cortex-M4(with FPU)または、Cortex-M33 (TrustZone®搭載)
- RA8 シリーズ:計画中
性能よりもコストや消費電力を優先する場合はCortex-M23搭載のRA2シリーズがお勧めです。高性能を求めるのであればCortex-M33かM4になります。Cortex-M33とCortex-M4の決定的な違いは、TrustZone搭載か否かです。RA4シリーズとRA6シリーズから選ぶことができます。RA8シリーズは計画中となります。RA6より高スペックのMCUとなります。お楽しみください。
(4)RAファミリ製品マップ
RAファミリを、メモリサイズとパッケージ(ピン数)でマッピングしました。メモリについては、32KB フラッシュメモリ、16KB内蔵SRAMから2MB フラッシュメモリ、1MB内蔵SRAMまで揃っています。また、パッケージについては、16ピンのWLCSPから、176ピンLQFP/BGAまで揃っています。
RA2シリーズから、RA4シリーズ、RA6シリーズと順次右上がりにマッピングされ、一番右上はRA8シリーズになります。メモリサイズとピン数のマッチングが、非常に効率良く展開されているため、多種多様のアプリケーションに適用可能です。
(5)RXファミリ、Renesas Synergyとの棲み分け
RAファミリは、ルネサスの32 ビットマイコン の範囲を拡張する位置付けです。従来の32 ビットマイコンRXファミリとRenesas Synergyプラットフォームを補完するファミリです。
RXファミリは、業界トップクラスの単位周波数あたりのCoreMark® パフォーマンスと大容量コードフラッシュメモリ、SRAM を搭載した独自の32bitコアが特長です。また、Renesas Synergyプラットフォームは、マイコンと民生グレードの品質と保証されたソフトウェアおよび開発ツールを組み合わせたArm Cortexコア搭載しています。
この2つのファミリにRAファミリが加わり、ルネサスの32ビットマイコンの適用範囲が大幅に拡充されます。
RAファミリのターゲット用途および市場
(1)RAファミリの製品ポートフォリオ
RAファミリは、分野で大きく分けると、メインストリームライン(低消費電力)、エントリーライン、アナログ機能強化ライン、ワイヤレスライン、モータ制御ラインになります。
各ラインの製品には、それぞれコンセプトに合った、低消費電力、アナログ機能、通信機能、液晶表示などのヒューマン·マシン·インタフェース、IoTやエッジコンピューティング向けのセキュリティ機能、産業用としてのモータ、インバータ制御などのための周辺機器を搭載しています。また、小型でバッテリ駆動のセンサアプリケーションから、高性能、処理集約型の組込みシステムまで、非常に広範囲の市場に適用することができます。
(2)ターゲット用途及び市場
RAファミリは、多種多様な用途や市場ニーズに対応可能なため、さまざまな分野での用途に適用可能です。
- 長期製品寿命と長期供給性、さらに105℃の高温動作は、産業分野での使用に最適。
- A-Dコンバーターやプログラマブル・ゲイン・アンプ、コンパレータなどのアナログ機能と、柔軟性の高い高性能タイマとの組み合わせにより、モータ制御分野にも理想的。
- 多彩なコネクティビティに対応する周辺機能、暗号化ハードウェアアクセラレータ、スケーラビリティといった特長により、コネクティビティ分野のみならず、IoT機器全般に最適。
- 電力計測分野向けでは、長期製品寿命のほか、Secure Crypto Engineが高評価。
- 静電容量式タッチインタフェースは家電用途に理想的な機能で、革新的なヒューマン・マシン・インターフェース(以降、HMI)設計が可能。
RAファミリの開発環境
(1)RAファミリの開発環境
RAファミリを使ったシステム開発に必要な、ソフトウェア、サポートツール、統合開発環境、オンチップデバッガ・プログラマ、開発/評価キットなどは、ルネサス純正のものだけではなく、パートナ企業の提供する製品も多種多様なものが揃っています。そのため、ユーザーはフレキシブルに開発環境を選ぶことができます。
(2)パートナエコシステム
RAファミリでは、多くのソフトウェア、ハードウェアを提供するパートナ各社と協業した総合的なエコシステムを実現しています。セキュリティ、セーフティ、コネクティビティ、HMIシステムなどのコアテクノロジを中心に、お客様のIoTアプリケーション開発加速をサポートします。
パートナエコシステムは、 ルネサスのウェブページで最新データをご確認ください。
(3)ソフトウェアパッケージFSPと統合開発環境e2studio
RAファミリ用のソフトウェアパッケージとしてFlexible Software Package(FSP)が提供されています。FSPの詳細は第2回で詳しく解説いたしますが、FSPにはRAファミリの周辺機能のドライバー、RTOS、ボードサポートパッケージ、セキュリティ、静電タッチセンサーなどのソフトウェアが統合されて提供されます。ユーザーに必要な機能は、FSPをインストールする際に選択可能です。
統合開発環境は、e2studioが提供されています。 この詳細も第2回で詳しく解説しますが、e2studioにはコンパイラやデバッガー機能だけでなくクロックやピン、モジュール、割り込みなどのコンフィギュレータが統合されており、ユーザーはプログラム開発からデバッグまで、効率良い開発を行うことができます。
RAファミリの各シリーズの特長
ここから、RAファミリのシリーズごとに見ていきましょう。
(1) RA 2 シリーズ
RA2シリーズは、優れたコストパフォーマンスと、超低消費電力を特長とするRAファミリのエントリレベルです。Arm Cortex-M23 コア搭載の32ビットMCUで、ピン数は25ピンから100ピンまで、フラッシュメモリサイズは32KBから128KBまで対応しています。 QFN、LGA、BGA、最小のWLCSPなどの超小型パッケージオプションも豊富に揃っています。
特記すべきはA-Dコンバーターの種類が多彩だということです。24ビットΔΣ方式A-Dコンバーター、16ビットA-Dコンバーター、12ビットA-Dコンバーターです。24ビットΔΣ方式A-Dコンバーターを使用すれば、参照電圧が3Vの場合に約179nVの分解能で測定することができます。そのため、アナログセンサなどの微小電圧を測定するアプリケーションに最適です。医療機器、計測器、家電、オフィス機器などのシステム制御やユーザインタフェース用途に理想的なデバイスです。
(2)RA 4 シリーズ
RA4シリーズは、ある程度のコネクティビティやパフォーマンスを要求しつつも、適度に低消費電力であることが求められる用途に適しています。最大動作周波数100MHz/48MHzのArm Cortex-M33/M4を搭載しています。
Arm Cortex-M33にはArmプロセッサ独自のセキュリティ機能TrustZoneが搭載されており、特にIoTなどの高度なセキュリティの必要なアプリケーションをはじめ、産業機器、家電、オフィス機器、ヘルスケア製品、計測器などの用途にも適しています。
(3)RA 6 シリーズ
RA6シリーズは、優れたパフォーマンスと、最も幅広いコミュニケーションインタフェースを備えるハイエンドマイコンです。Arm Cortex-M4/M33コアを搭載し、動作周波数は最大240MHz、フラッシュメモリ容量は256KBから2MBまでです。
家電、計測器、その他の産業/コンシューマなど、IoTエンドポイントの幅広い用途に対応します。
(4)RA8シリーズ
RA8シリーズは、最高のパフォーマンスとインテグレーションを目指した、最上位製品シリーズです。最大の特長は240MHzを超える周波数帯、大容量のフラッシュとRAMの統合で、高いパフォーマンスが要求される用途に適しています。
まとめ
1. RAファミリは、Arm Cortex-M搭載の新32ビットマイコンです。従来のRXファミリやRenesas Synergyの32ビットマイコンの範囲を拡充する役割を担っています。
2. RAファミリ用のソフトウェアパッケージとしてFSPが提供されています。FSPにはRAファミリの周辺機能のドライバー、RTOS、ボードサポートパッケージ、セキュリティ、静電タッチセンサーなどのソフトウェアが統合されて提供されます。
統合開発環境は、e2studioが提供されています。コンパイラやデバッガー機能だけでなくクロックやピン、モジュール、割り込みなどのコンフィギュレータが統合されています。
3. RAファミリと一緒にすぐに使える多くのソフトウェア、ハードウェアを提供するパートナ各社と協業した総合的なエコシステムを実現しています。セキュリティ、セーフティ、コネクティビティ、HMIなどのコアテクノロジを中心に、お客様のIoTアプリケーション開発加速をサポートします。
次回予告
次回は、 FSPとe2studioについて、詳しく解説します。ダウンロードからインストール、立ち上げ方法について順序立てて説明します。
こちらも是非
“もっと見る” Cortex-M|RAファミリ編
「クイックコネクトIoT」でIoTシステムをサクッと構築してみた
最初にクイックコネクトIoTについて説明し、次に、実際の動作環境、センサ仕様を解説し、その後、実際にRAファミリを動作させる手順を説明します。最後は、実際の評価キットRA6M5評価ボードを使って、ツール上で温度と湿度を確認します。
サンプルプログラムでRAファミリを動かしてみよう
はじめにRAファミリ用の統合開発ツールe2studioの起動から、実際のセットアップ、内容、使い方を説明。次に実際の評価キットのEK-RA6M5評価ボードを使って、e2studioのテンプレートの中に準備されている「LED点滅」のサンプルプログラムを動作させる実際の作業を解説します。
IoTシステムを素早く構築するための「Flexible Software Package (FSP) 」とは
Flexible Software Packageには、通信やセキュリティのようなドライバやスタックが含まれています。これらのドライバやスタックは、ミドルウェアスタック、個々のユーザーアプリケーション対応のRTOSに依存しないハードウェア抽象化レイヤ(HAL) ドライバで提供されます。